「おーい、田代ー、におー、お前ら寝過ぎー!」

「…ピヨ」

「…ねむ」



丸井君のうるさい声で目を覚ますと、なんと既に3時間目が終わった後の休憩時間に入っていた。今日の朝練で私と仁王君はグラウンドを走らされたからどうやらその反動が来たようだ。ちなみに理由は遅刻で、その元凶は言うまでもなくプーちゃんにあるが、あの可愛さは犯罪だから仕方ない事にする。

背筋を伸ばし、背骨をバキバキと鳴らす。若干丸井君が引いているようだがさほど気にする事ではない。どうやら次の授業は移動教室のようで、教室には私達3人以外に誰もいなくなっていた。



「お前ら動き遅すぎ、マジ亀みてえ」

「豚に言われたくないぜよ」

「仁王君、豚トロが食べたい」

「何も食わずに死ね!」



私と仁王君の間に割り込み、無理矢理肩を組んで歩き出す丸井君。歩きにくいことこの上ないが、抵抗するのも面倒なので放っておく。

そうしてようやく目的地付近まで来た所で、急に仁王君が耳打ちをしてきた。なんだなんだ。



「田代、あの1年にかなり見られとるなり」

「こんな体勢で、しかも君達といれば当たり前だ」

「違う、あいつマネージャー試験で最後まで残った奴じゃき。田代の事睨みまくっとる」

「へえ」



興味は沸かなかったが仁王君があまりにもグイグイと引っ張って来るものだから、一瞬だけ意識をその子に向ける。…あぁ、確かに般若がいたな。



「睨まれてるな」

「お前、なんかあったら絶対言えよ?」

「嫌だ面倒臭い」

「田代になんかあったら俺…!」

「泣くな面倒臭い」



そうやって仁王君が縋りついてくるから余計見てくるんだと思うが、という正論かつどうでもいい事を考えていると、その子はわざわざ私の視界に入るように体を前に出してきた。だから音楽室に入る前にその子と再度、今度は長めに視線を合わせてみたらなんと舌打ちされた。丸井君はこえー、などと震えている。仁王君はもはや硬直だ。この意気地なし。

仁王君に言われるまで忘れていたが、確かにあの子は面接の時にいた子で間違いない。かつては他の2人を批判していたのに、結局は自分も同じ扱いを受けてしまったという少し不憫な子だ。そこで私に恨みを持つとなれば、原因はお門違いな嫉妬に違いないだろう。これ以上何もなければいいが、そうも簡単に物事が進むとも思えない。

先生が奏でだしたピアノを耳にする中、私はこれから起こりそうな厄介事を予想して人知れず溜息を吐いた。面倒事は嫌いなのに、困ったなぁ。
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