「ちょっと待て落ち着け2人共。何なんだこの状況は」

「「いいからいいからー」」

「ちっとも良くない」



昼休み。いつも通り自席で昼食をとろうとお弁当を鞄から出した矢先、急に丸井君と仁王君が私の両隣に立ちはだかって来た。無言で2人を見上げれば、その表情はいやに笑顔で気持ち悪い。嫌な予感をスルーして再度お弁当に意識を向けると、その途端私の体は浮いた。文字通り、浮いた。



「何処に行くんだ」

「屋上!」

「なんで」

「皆でご飯食べるなり」

「なんで」

「「なんでも!」」

「無茶苦茶だ」



つまりあれだ、強制連行というやつだ。2人は私の脇の下に腕を入れがっちりと支えてる。お弁当を手に、ずるずると引きずられる私。滑稽だ。滑稽以外の何でもない。先生も生徒も全員が必ず二度見してくる。なのに、誰も助けてはくれない。どうやら今日は厄日らしい。



「田代!遅かったではないか!」

「全く貴方という人はまた懲りずに逃げ回って!」

「え、怖」

「仁王、ブン太、田代を離してあげなさい」



屋上に着くと、まず真田君と柳生君が朝の事でガミガミ怒ってきた。柳君はそんなうるさい2人の間に堂々と割り込んで、更には私の腕を掴んでいる2人にそう言った。急に解放されて少しふらつくと、柳君が受け止めてくれた。今日の柳君は好きだ。



「で、なんで急に集まったんだ?」

「お前に渡す資料があった。それで、どうせなら全員で昼飯をとればいいと思ってな」

「いやどう考えてもその成り行きはおかしいだろう」



私の言葉は全員にスルーされ、結局全員で1つの輪を作り昼食をとることになった。私の隣には切原君と柳君が座ってる。うわ、切原君に卵焼き取られた最悪。



「あぁああぁー!?ちょ、丸井先輩!!それ俺が楽しみにしてたハンバーグ!!」

「お前この前俺のお菓子勝手にとっただろぃ!お返しだってああぁあ!?仁王てめぇ、何とってんだよ!」

「プリッ」

「お、落ち着きたまえ!」

「お前達!食事中ぐらい静かにせんかあぁあ!!」

「お前が1番うるさいぞ、弦一郎」



誰かが何か1つでも問題を起こせば全員に蔓延し、その場は大騒動となる。まるで家族のような彼らに私は痺れを切らし、1人その輪から抜けて静かに昼食をとり始めた。食事くらいまともにとらせてほしい。



「悪いな、いつもに増してうるさくて」

「よくもここまでテンションを保っていられるな。ある意味尊敬する」

「ははっ、確かにな」



すると、見兼ねてくれたのか桑原君が隣に座ってきた。どうやら昼食はもう終えたらしく、手にはいくつかのパンのゴミのみが持たれている。



「あいつらあんなんだけど、昨日お前が幸村の見舞いの為に部室出てった後、かなり喜んでたんだぜ」

「…全くだ。外まで声が聞こえていた。非常にうるさかった」

「俺もあいつらも、本当にお前に関してはこれまでのマネージャーと違うと思ってるから」



桑原君の急な言葉に、思わず食べる手が止まる。



「これからもよろしくな、田代」

「…あぁ」



そして桑原君はそう言うと同時に私の肩をポン、と叩いてきた。その心地の良い重みに少しだけ口元が緩む。



「田代ージャッカルー何2人でコソコソ話してんだよぃ!」

「わかったわかった、今行く」

「…仕方ないな」



和やかな時間も束の間、再び私達はうるさい輪の中に戻る事になった。切原君が後ろから抱きついてくるせいでお弁当は食べにくいし、丸井君のせいでお菓子のカスがお弁当に入るし、真田君と柳生君は朝の事をまだ引きずってくるし。極めつけに、他の人はそんな状況を遠巻きに見て笑ってる。桑原君、君は仲間じゃなかったのか。



「(…不思議と、そこまで嫌じゃないが)」



こうして、結局最後まで慌ただしいまま昼休みは終わった。

ちなみに、柳君が言ってた資料というのは、マネージャーの仕事内容をまとめたものだった。その仕事量は膨大な為、今日は家に帰ってそれを熟読し、本格的な部活参加は明日からになるらしい。見る限りでも充分な厚みがあるし、これは徹夜の可能性も出てくるな。しかし、これも自分の決めたことだ。最後まで読破し、明日には立派に働いてやろう。そんな決意をした、ある日の事。
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