田代が来た。

田代が視界が入った途端、子供達の無邪気な笑顔も声も何もかも頭から消え去って、全てが田代だけで埋め尽くされた。それぐらい俺にとっては衝撃的すぎたというのに、当の本人は至って普通の表情で淡々と話している。



「色んなことをずっと考えてた、幸村君が入院してから」

「…うん、俺も」

「あの人達は情けなく笑ったり泣いたり隠したりをしてるばかりで、でも私にそんな真似は出来なかった。というよりしたくなかった」

「バッサリ言うねー」



久しぶりに見る田代はなんだか逞しくなった気がする。相変わらず細いのには変わりないけど、あの頼り無い体とはまた違うと思った。



「…言葉がまとまらない」

「ゆっくりでいいよ」

「いや、そうなると延々とかかる」

「俺は田代の為なら延々と待つよ?」

「それは私が面倒臭い」



少し照れくさそうに頬を掻いて目線を逸らす田代がおかしくて、つい笑う。そんな俺の笑い声が癇に障ったのか、田代は背筋を伸ばして一度咳払いをした後、俺の目を真っ直ぐ見て言葉を続けた。



「私が支える」

「…え?」

「幸村君の分まで強くなることはできない。だから、幸村君が挫けそうな時は私が後ろから支える」



音信不通だった癖にいきなり来て、いきなりこんなこと言って、本当に田代の行動は先が読めない。しかも支える、だなんて田代らしくない。俺は色々整理がつかない状態だけど、それでもその強い瞳から目を逸らすことはしなかった。



「ついでに言うと、さっきマネージャーになった」

「それついでに言うことじゃないよ、本題だよ」

「痛い痛い痛い痛い」



その途端また紡ぎだされた予想外過ぎる言葉に、俺はとうとう我慢出来なくなって田代の頭を両手で思いっ切り抱えた。ミシミシ言ってるけどこの際気にしないよね。ていうか何、マネージャー?いや確かに今日は試験の日だって蓮二が言ってたけど、どうせ採用できるような人材なんていないとも言ってたし。そんな所に田代って…えぇええ確実に今日雪降るだろ!



「なんで?どういう成り行きで?あいつらは知ってたの?」

「成り行きは察してくれ。いや、知らせて無かった。今日心底驚かれた」

「俺でもこんなに驚いてんだから当たり前じゃん。俺に今まで連絡寄越さなかった理由ってそれ?」

「…あぁ。全てが終わってから会いたかった。途中声を聞いたり顔を見たりしたら何かが揺らぎそうな気がした」

「お前案外可愛い思考持ってるんだね」

「いいから離せ苦しい」



俺の腕の中で話し続ける田代。そのぬくもりで田代がいることを今更実感して、それが嬉しくて腕の力を強める。抵抗してくる田代の力は前より格段に上がっている。でも、それすらも嬉しい。俺の、俺達の為にここまで頑張って来てくれたんだ。そしてこれからも強くありつづけてくれようとしてる。



「やっぱ俺、お前の事大好きだよ」

「いい加減離せと言っているだろう」



素直じゃなくて意地っ張りな田代だけど、こいつがいれば俺もまだ立海テニス部の部長として強くいられそうだ。そして、この位置を誰にも渡したくない。ついこの間までの俺とは違う。



「…ふふっ」



その時、胸あたりがじんわりと濡れるのを感じた。そういえば田代の抵抗が無くなってる。一瞬にして事を悟った俺は、力を緩めて田代の頭を撫でた。あーあ、このパジャマ新しいのにな!
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