「田代」 間もなく試験が始まろうとしている時、試験官代表である真田君が私の前に立ちはだかり、威厳のある声色で話しかけてきた。女子達はさっきの切原君の時のように歓声はあげずに、真田君のオーラに圧倒され縮こまっている。 「お前の望み通り、贔屓目は一切使わない」 「当たり前だ」 「今年は俺達の代ということもあって、例年より試験内容が厳しい」 「今更何が言いたい」 「…安心した」 「何がだ」 厳しい顔つきで忠告してきたかと思えば、途端に和らいで。その変化の理由がいまいちよくわからない私は、率直に理由を聞いた。 「田代は、何も変わっていなかったのだな」 「…馬鹿か君は」 「なんだと!?」 「すっかり変わった、私は。それよりもう試験が始まる時間だ、さっさと指示をしてくれ」 狼狽える真田君の背中を押して私はそう言った。何も変わっていないだなんて、笑わせてくれる。充分私は変わったというのに。 「これよりマネージャー試験を行う!まず名前を言っていけ!そこの者から!」 そしていよいよ試験が始まった。自分の名前を言っていく希望者に続き、最後に私の番が来たところで、多分これまで生きてきた中で1番大きな声で名前を言うと、そんな声が出せたのか、と柳君に笑われた。 こんなのはまだまだ序の口だ。どんな内容でもクリアしてやる。私は珍しく燃え上がった自分の闘争心と共に、手を握り締めた。 *** 「…これはやられましたね」 「ずるいなり、田代昼休み何も言っとらんかった」 「ほんっと、やっぱいいとこ取りだぜぃ、あいつ」 晴香先輩がマネージャー希望者の列に並び始めた時、俺だけじゃなくて他の先輩達も相当ビビったように口をあんぐりと開けていた。しかも、柳先輩はそんな俺達のとこに来て飄々と、田代もマネージャーを希望するそうだ、とか爆弾発言をかましだすし。そりゃ絶叫もするって。 で、それを聞いた瞬間俺は先輩の元に全力疾走した。普段と何も変わらない様子で俺を受け止めた先輩に言われた言葉は、今でも頭の中をぐるぐる駆け巡ってる。 「…ずるいっす、あんなの」 「まぁまぁ、そんなふてくされんなよ」 ジャッカル先輩が俺の頭を撫でるのを見て、他の先輩達も苦笑する。ちなみに俺は今、練習そっちのけでフェンスにへばりついて試験の様子をガン見してるところだ。多分こんなとこ副ブチョに見られたら制裁間違いなしだけど、気になるもんは気になるし…っと、話がズレた。 「これだったんですね、田代さんがやろうとしていたことというのは」 「春休み明け、なーんか体逞しくなったとは思ったんだけどなぁ。まさかこの為とは思ってもなかったぜぃ」 「田代がマネージャーなら俺頑張れるなり」 「まだ決まったわけじゃないだろ。田代は贔屓されんのが嫌いだし、多分俺達のうちの誰かが贔屓した時点で自分からやめるぜ、あいつ」 そう、晴香先輩は俺の目を見てはっきり、贔屓は駄目だ、それじゃあ意味が無い、と言った。でも、ぶっちゃけ無理だ。贔屓とかじゃなくて俺は晴香先輩のことを他の希望者の奴らよりも知ってる。だから晴香先輩をマネージャーにしたいと思うのは当たり前だ。 「…どうしてくれんすか、晴香先輩ぃいぃー!!」 「うるさいぞ赤也!練習に集中しろ!!」 先輩に向けて言った言葉なのに、副ブチョの怒鳴り声が返ってきて、更にむしゃくしゃした気分になる。あーもう俺どうすればいいのかわかんねえーよぉー!! |