「そろそろ教えろよ、晴香」

「何がだ?」



景吾君とのトレーニング最終日、つまり春休み終了直前。お互いシャワーを浴び終えて軽食をとっていた時、景吾君はふいにそんなことを聞いてきた。唐突な質問に勿論私は首を傾げる。



「お前が何のために此処まで頑張ってきたのか、教えろっつってんだ」

「…まぁ、景吾君相手なら良いか」



この決意を誰かに話す日が来るなんて、あの日の私は全く思ってもいなかった。人との出会いは不思議なものだ。

そして私は食べる手を止め、景吾君と視線を合わせた。



「立海テニス部部長の幸村精市が入院したのは知ってるか」

「あぁ、当たり前だ。こっちまで噂は相当広まったからな、あいつの影響力は半端じゃねえぞ」

「私は、彼含め立海のテニス部一部と、まぁ仲が良い」

「…初耳だぜ」

「初めて言ったからな」



私の言葉に景吾君は苦笑したが、構わず話を続ける。



「私は、マネージャーになろうと思う」

「何故だ。立海のマネージャーっつったら厳しいことで有名だぞ」

「そんなのわかっている。同情なんかじゃないし、それがあの人達にとって良いことなのかも知らない。ただ私がやりたいと思ったんだ」

「…」

「情けない顔をして、全く隠し切れてないのに何かを隠し通そうとするあの人達の様子を見て、正直かなり腹が立った」



腹が立った、というのが意外だったのか、景吾君は私を凝視した。



「中途半端は嫌いだ。そういうものは意地でも直したくなる」

「…ほんっと、お前は素直じゃねーな」

「何が言いたい」

「つまり、あいつらが大切なんだろ」



それまで驚いていて少し押され気味だった景吾君は、その言葉と共に急に厭な笑みを向けてきた。その笑みに無性に腹が立つが、きっとそれは、図星だからなんだろう。



「…どうだかな」

「じゃなきゃ腹も立たねえし、あいつらの為に何かしてやりたいって気も起きねえだろ」

「その言い方ははなんか恩着せがましくないか」

「お前の気持ちが本物ならそんなことねえよ」

「失礼な、本物に決まっているだろう」



思わず即答してしまった事に次は自分が驚き、ぐっと口を噤む。自分の中にこんな気持ちがあるなんて、きっとこのキッカケがなきゃ一生気付いてなかっただろう。面倒臭いと決めつけて人と関わるのを敬遠していた私に、こんな感情があるなんて思ってもいなかった。



「にしても、なんでもっと早く言わなかった?テニスの知識を教えてやることも出来たのに」

「いい、1人でやりたかった」

「確かにお前、俺が面倒見てやるっつったのにほとんど1人でこなしやがったよな」

「許せ」



景吾君の、変な気遣いなど一切無い、淡々とした喋り方はとても心地良く、そうして私達は再び何事も無かったかのように食事をとり始めた。



「大丈夫だ、お前は強い」

「…さぁ」

「挫けそうな時は来いよ、なんて言葉は俺からは言ってやらねえぞ。ここまで来たならとことん強くいろ」

「当たり前だ」



最初は変な人だと思った。初対面なのに過剰なほど世話を焼いてきたし、完璧な超人かと思えば案外アホっぽいし、色んな意味で底が見えない人だ。でも、なんだかんだで優しくて、頼りになる。



「景吾君、ありがとう」



私の言葉に、景吾君はバーカ、と笑った。

やっとだ。やっと、時が来た。あの人達には結構な心配をかけたようだが、全て終わればそれもなくなるだろう。結果がどっちに転んだとしても、後悔なんて絶対しないように此処まで努力してきた。全てが終わったら、幸村君にも報告をしよう。その時は、どんな結果でも笑顔で。
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