始まりの日と終わりの日

4月。

学年が1つ上がったことにより、生徒達は皆どこか浮かれた様子で日々を過ごしている。クラス替えはせずとも、誰もが新鮮さを感じているのは手に取るようにわかることだった。



「あ、そーえば今日じゃね?マネージャー試験」

「どうせロクなの入ってこないじゃろ」

「まぁな、俺達が入学してから結局採用したことなかったし」

「いや採用したことはあったなり、ただ全員1ヶ月も経たんうちに辞めていった」

「…そんなに厳しいのか」



昼休み、お馴染みの丸井、仁王、そして晴香はそんな会話を交わしていた。結構な言い様に晴香が思わずそんな疑問をぶつけると、2人は目を合わせて溜息を吐き、丸井に至っては若干わざとらしく肩をすくめ、首を横に振った。



「厳しいに決まってんだろぃ、他の部活と違ってこの前やった体力測定のデータまで見られんだぜぃ?」

「女子は握力20kg以下は即不採用、何より1番の難関は最後の面接じゃ」

「面接?」

「レギュラー全員と希望者の集団面接。あれやってみたかったんだよなぁ!」



今年からやっと出来るぜぃ!とはしゃぐ丸井だが、そんな彼とは対称的に、仁王は面倒臭い、と愚痴をこぼす。



「毎年どれくらいの人数が応募するんだ?」

「ざっと20人くらいじゃ」

「そんなにか」

「でも大半はマネージャーっつー立場に夢見て入学してきた1年ばっかで、骨のある奴は全然いない。しかも女子ばっかで使い物にもなんねえしな!」



立海テニス部のマネージャーというのは、やはり女子なら誰もが憧れる立場なのだろう。どうしてもレギュラーばかりが注目されがちだが、実際は平部員のレベルも色んな意味で高いのだ。そんな部員達に囲まれる部活は一見華やかな気もするが、憧れのみで入ったら最後、想像を絶する過労働が待ち受けていることを上級生は既に承知している。その為、毎年希望者は1年が多いとのことだ。



「幸村君がいない今の試験官代表は真田だし、相当厳しいぜぃー」

「幸村君が代表の方が厳しいと思うが」

「ま、それも一理あるの」



そこでようやくマネージャー試験についての話題は途切れ、3人はまた違う話題で盛り上がり始めた。放課後まで、あと少し。



***



昼休みの今、俺と弦一郎は部室にてある作業を行っている。



「蓮二、全部で何枚あった?」

「23枚だ。まぁ、ほぼ例年通りといったところだろう」

「ふむ。今年も同じ結果になるような気がしてならんがな」

「たまには芯の通った奴が来て欲しいものだ」



その作業とは、事前に集めておいたマネージャー希望者の確認だ。試験は今日の放課後に行われる事になっている。

1週間ほど前から学校掲示板の前に専用のボックスを設けておいたところ、名前、学年組も記載されている体力測定結果の紙が、今年は23枚入っていた。更に大半の者は意気込み等を書いた紙も添えており、その丸みを帯びた字には正直嫌な予感しかしない。



「名前と顔を確認していくぞ」

「あぁ」



俺の言葉に弦一郎は反応し、手分けをして作業を進め始めた。が、しばらくすると意気込みの紙が添えられていない、体力測定結果のみが俺の手に入った。中々珍しいな、と思いつつもその者の名前を確認してみる。

そして、その名前を見て俺は驚愕した。



「どうした?蓮二」

「…やられたな」

「む?…これは」



他の者とは違う、女らしからぬ達筆な字。無愛想な顔写真。両手35kgというずば抜けた握力。



「待ちくたびれたぞ、田代」



そこにはしっかりと、田代晴香、と書かれていた。



***



「(…うるさいな)」



放課後。マネージャー試験の為にテニスコートに来ると、そこは練習の声よりも女子の歓声で埋め尽くされていた。本人達は応援したいという気持ち一心なんだろうが、こうも人数がいると騒音にもなりうるな、とつい眉を顰める。

それから女子達をスルーして部室に向かうと、部室の前には遠目から見る限りでも結構な人数の女子が並んでいるのがわかった。確かマネージャー希望者は男女問わないはずだったが、見事に女子しかいないとはなんとまぁ。とりあえず、私も並ぼう。



「ちょ、ちょちょちょっとちょっと!!晴香先輩っ!!」

「あ」



列に近付いてみると、女子達は皆私よりだいぶ小さくて、誰もが可愛らしい子ばかりだった。よくマネージャーなんかやる気になったものだ、と感心していると、そこに後ろから切原君が現れた。女子達はきゃあ!、と歓声をあげる。なぜ歓声?



「どういうことっすか!?」

「いや、こういうことだが」

「俺聞いてないっす!!」

「言ってないもん」



私の言葉にうっ、と言葉を詰まらす切原君。更に後ろの方には、心底驚いた顔をしているあの人達がいる。



「なんで、俺達に何も…!」

「私が君達に何かを言えば、君達は私に協力してくれただろう」

「当たり前っす!!」

「それが駄目なんだ」



まさかこんな早くバレてしまうとは、目ざといというかなんというか。そう思い苦笑しつつ、私は半ば涙目で力説してくる切原君の頭に片手を乗せ、言葉を続けた。



「マネージャーは強くなきゃいけない。私だけが君達の手助けを受けるのはおかしい、公平じゃない」

「でも…」

「私1人で頑張った結果を君達に認めてもらわなきゃ意味がない。贔屓は許さないぞ、切原君」



そう、全ては、あの日から決めてきたのだ。
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