幸村君が入院した。

このことは光の速さで学校中を駆け巡り、そして誰もが混乱に陥っている。中には興味本位だけで騒ぐ野次馬もいるが、今1番立海の中で問題になっていることと言えばこれに尽きる。

幸村君と一緒に退院した後、彼は再入院するまでの間何回か学校に顔を出していた。でも決まって早退か遅刻、もしくは部活をやりに来ていただけで、実質彼の姿を学校で見たことはあまり無かった。



「田代、昼飯食わねえのか?」

「…あぁ、忘れてた」

「田代が飯のこと忘れるなんてありえないなり」



というか、もう昼休みに入っていたのか。そのことにすら気付かなかった。でも確かに辺りを見渡すとクラスメイトは皆それぞれ昼食をとっていて、丸井君と仁王君も机の上にパンやら色々広げている。

そういえば、再入院が決まった時から今まで、テニス部の人達と幸村君について話してないな。というか、完全にその話題を避けられているのだが。部内の問題に私が立ち入ることも出来ないから、仕方ないと言えばそうなるが…きっと彼らが避けている理由は、そんなことじゃない気もする。



「君達は、何を考えているんだ」



だから私は、直球に彼らに問いかけた。わかりやすいくらいに2人の動きが止まる。



「えー、あー」

「今まで散々避けてきたんだ、いい加減吐け」

「…プリッ」

「部内の事情を話せと言っているんじゃない。ただ何を考えているか、というくらい私にも聞く権利はあるはずだ。じゃなきゃ丸井君が入院期間中にメールを送って来た意味が分からない」

「いや、いいんだよ、お前なら何言っても。でも」



丸井君はそこまで言うと俯き、仁王君は逆に私の目を見て苦笑してきた。



「多分怖いんじゃ、俺達」



予想外の言葉と表情が2人から同時に向けられ、責め立てるように紡いでいた言葉が一瞬にして止まる。それからも2人は若干気まずそうに話し始め、なんだか居た堪れない空気になった。



「幸村君の検査入院中、赤也が1回思いっ切り泣いた時あったんだよ。その時俺、あいつに一緒に信じて待とうっつったんだ」

「あぁ」

「でも、結局また入院することになっちまって。そしたら赤也の奴また泣きわめいて」

「あぁ」

「信じて待った結果がこれッスか!?って、何故か俺が喝入れられちまった」



自嘲するように笑った丸井君を、なんとも言えない表情で見つめる。恐らく切原君も気が動転してただけで本心ではないんだろうが、整理がついてないのは全員に言えることだ。ゆえに、丸井君もその言葉に、更には今の状況にかなり落ち込んでいることが見受けられる。



「俺は…なんかもうようわからん。当たり前だったものが一気に崩れて対応しきれとらん」

「確かに、崩れたな」



そして、沈黙が降りかかる。気まずそうにパンをむしる丸井君につられて、仁王君もパックジュースをわざと音を出して飲み始めた。沈黙がこんなにも痛く感じるのは初めてだろう。

そうだ、この状況を一言で言えば、まさに崩壊だ。



「…ちょっと行ってくる」

「は?どこに?」

「田代、どこ行くん?」



私は確かに自他共に認める面倒くさがり屋ではあるが、こう見えて中途半端なことは好まない。自分が納得いかないと気が済まない。お節介とか世話焼きとかそんなんじゃなく、ただ、私が直したいものを直す。意地でも直してやる。時間はかかるに違いないが、やりたいことはこれだけだ。

話しかけてくる丸井君と仁王君を盛大にスルーして、私は教室を後にした。
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