───それから日は経ち、とうとう検査結果の日になった。



「幸村君、親は?」

「もう少しで来るよ」



結果がどうであれ、幸村君はとりあえず明日私と一緒に退院することになっている。今後どうなるかはまさに今、先生の口から出る言葉次第で決まる。



「…怖いか?」

「やだなぁ、そんな弱気な発言するわけないでしょ」



この1週間、私は特に態度も何も変えずに接してきた。それは私が幸村君の言葉を信じたから、…いや、信じたいからであって、自分から直接病気の件に触れることは初日のあの日以来していなかった。幸村君は今も、いつもの笑顔で私の言葉を軽く流している。



「精市!」

「あ、母さん、父さん。じゃあ田代、俺の病室で待ってて」

「幸村君の?」

「うん、すぐ行くから」



そこで幸村君の親が来たから軽く会釈をすると、次は急にそんな指示を出してきた。私の返事を聞かないまま診療室に入っていってしまったので、仕方なく足先を幸村君の個室の病室に向ける。

時刻は昼過ぎ。今日はあの人達が来る予定はない。きっと今頃弁当やら購買の物やら頬張っているんだろう。とその時、ポケットの中に入れていた携帯が震えた。メールだ。相手は…切原君か。

 ブチョ、大丈夫っすか?

…全く、他の人は気になっていても幸村君から連絡が来るまで我慢しているというのに、この子は困ったものだ。私は溜息を吐きつつも彼の無邪気さに苦笑し、まだわからない、と返信を打った。きっとこの後も返信は来るだろうが、私はあえて携帯の電源を切りそのままベッドに仰向けに転がった。幸村君は男のくせにいやに優しい匂いがする。



「…大丈夫、大丈夫」



それから幸村君が帰ってくるまでの間、色んなことを考えた。本当に真田君のリハビリプランをやらされるのだろうか、とか、購買の季節限定メニューは何になったんだろうか、とか。どれもこれも、ただの気休めなのだが。



「田代、入るよ」

「…あぁ」



そうすること数十分、幸村君が帰ってきた。同時に上体を起こし、あぐらをかく。両親の姿が見当たらないから問いかけると、もう既に帰ったとのことだ。



「俺のベッドでそんな堂々とするなんて、良いご身分だね田代」

「まぁな。で、どうだったんだ」

「サラッと流した上に直球だね」



本来の雰囲気にちっともそぐわない笑顔で幸村君はそう言ってきた。しかし、私の無言の圧力に気付いたのか、目線を逸らすなりいそいそと荷造りを始めた。

私に向けられているその背中は、酷く小さくて頼りない。



「幸村、君?」

「俺、認めたくなかったんだ」



荷造りをする手は止まらない。でも代わりに、私の思考が止まり始めてきた。嫌な汗が額を伝う。



「ギランバレー症候群に酷似した病気って、なんだそれって感じだよ」

「ギランバレー?」

「来月から正式に入院だ。退院はおろか、治るかもわからない」



目の前が真っ暗になる。いや、違う、滲んでいるんだ。視界が滲んでいる。



「わー、光栄だなぁ田代に泣いてもらえるなんて」

「っ、ふざけるな!!」

「田代」



そして幸村君はようやく手を止めるなり立ち上がって、私の元に近付いてきた。私はあぐらをかいているから自然と幸村君を見上げる形になる。その見上げた先の目には、



「俺、」



何か、光るものが見えた気がした。が、ちゃんと確認する前にきつく抱き締められる。普段の私なら全力で引き離しているが、今はそんな気力なんてない。第一、幸村君、力が強すぎる。



「頑張れるか、微妙だ」



こんなに力があるのに病気だなんて馬鹿げている。私は信じない。いや、信じたくない。幸村君、どうか嘘だと言ってくれないか?その意を込めて彼の背中を叩いたが、返って来たのは小さな嗚咽だけだった。
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