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「終わったぁあぁああ!!!」



2月下旬。ようやく全ての受験が終わった四天宝寺のメンバーは、各々の受験が終わり次第集合しようと決めていた此処、亜梨沙が働いている甘味所に来ている。ちなみに今大声を出して全身で喜びを露わにしながら入って来たのは、言わずもがな謙也だ。どうやら彼が最後だったのか、他のメンバーはそんな彼を見て困ったように笑っている。



「謙也うっさいで、貸切やないんやから」

「亜梨沙さんにも迷惑とねー」

「あはは、大丈夫だよー。お疲れ様、謙也君」

「あ、すんません…ありがとうございますー!」



頭に手をやり照れくさそうにして席に座った謙也に、亜梨沙は暖かい番茶を差し出した。先に来ていた白石、千歳、石田、金色、一氏は既に食べ物を食べ終えたのか、空の容器のみが目の前にある。亜梨沙はそれらを下げた後に、もう一度食後の番茶を彼らに差し出した。



「謙也君、何食べる?」

「んじゃー今日はこのかぼちゃのお汁粉っちゅーのでお願いしますー!」

「アタシそれさっき食べたわよー!美味しかった!」

「ありがとう、小春君。じゃあ今から用意するね」



まだ入試の結果が出ていないので完全に安心しきれる訳ではないが、重荷が取れたという面は変わりない。これでようやく勉強漬けの毎日から解放される事の喜びからか、彼らの表情はとても柔らかかった。それを見て亜梨沙も思わず嬉しくなり、顔を綻ばせる。



「これでようやくあの子達もまた此処に来れるわね。良かったわね、亜梨沙ちゃん」

「…はい!」



同じ従業員の戸田にそう言われ少し照れながらも、亜梨沙は変わらぬ笑顔で元気に頷いた。バイトを始めてからもうすぐ1年、もう作るのもお手の物になった食べ物を着々と用意していく。

材料を取りに行く為に冷蔵庫を開いた亜梨沙だが、その中にある物を見て彼女は思わず強張った表情になった。



「(上手く出来てればいいなぁ)」



その物とは、明日彼らが送別会の後に打ち上げとして此処に来る際にもてなす、彼らの為だけに考えられたケーキの事である。財前や店の者と案を練るに練った結果、亜梨沙はあずきのクリームが詰められた抹茶のロールケーキを作った。それだけでは寂しいのでおはぎもいくつか用意しており、準備は万端だ。しかし、おはぎはともかくケーキは形を崩す訳にはいかないので味見出来ない事が難点である。一応切れ端のスポンジや余ったクリームは舐めてみたものの、どうも自信が沸かない。彼女はそんな表情をしていた。



「大丈夫よ、私や店長だって切れ端食べて確認したでしょ?美味しかったわよ!」

「戸田さん…ありがとうございます。なんせ1から自分で作ったのは初めてなので、どうも心配で」

「大丈夫ったら大丈夫、そんな心配しないのー!それよりほら、謙也君が待ってるわよ」

「はい、行ってきます」



不安げな顔で冷蔵庫を見ていた亜梨沙に気付いた戸田は、彼女を元気付ける為に笑顔で言葉を送った。そうしてそれに安心したように笑い再び業務についた亜梨沙を見て、戸田の方も顔が緩む。



「可愛いわねぇ、亜梨沙ちゃん」

「本当ですよね、健気で応援したくなっちゃいます。あの子達が通い詰める気持ちもわかります」



そこにやって来た店長が戸田に話しかければ、彼女は勿論その言葉に同意した。2人は、彼らの為に一生懸命になっている亜梨沙の姿を、終始暖かい眼差しで見つめていた。
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