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「行ってきまーす」

「はーい行ってらっしゃーい!」



重たい瞼をなんとかこじ開け、つま先を地面にトントン、とぶつけてローファーの履き心地を整える。

朝にはあまり強くないので何回も出てしまうあくびを隠す為に、手で口を押さえながら俯く。そうしている間にチン、とエレベーターが到着する音がして、此処が何階なのかを把握する為に私は一度前を向いた。



「「…あ」」



そうして前を向いたことで目に入ったエレベーター内にいる人物を見るなり、私は思わず声を上げてしまった。ちなみに声を上げたのは私だけではなく、相手もだ。

あれだ、この人、昨日の帰り道にやたら目が合った緑のヘアバンド君だ。



「…お、おはようございます」

「あ、ど、ども」



とりあえずお互い面識があることは忘れてないわけだから、一応軽く挨拶をしておく。…き、気まず!まさか同じマンションとかどんな偶然!だから私のことガン見してたのかな?記憶力半端ないなヘアバンド君。

私はそこまでお喋りが上手い訳ではないけれど、エレベーターの機械音だけが響くこの状況を打破する為に、そしてここは年上としての気遣いを見せる為に、意を決して口を開いた。



「し、四天中の人ですよね?」

「は、はい。…隣の高校の人?」

「はい、春から引っ越してきたんです」

「そうなん、ですか」

「はいー」



…終わっちゃったー!?会話広げるの下手すぎだよ自分、むしろ気遣わせちゃった感満載じゃないかこれじゃあ!別に、特別仲良くなりたいとかいうよりもただご近所付き合いという意味での会話なんだからそこまで緊張しなくても…いやいや、でもこれから常連客になる可能性が高そうだし、やっぱり仲良くなっておいた方が…ってなんでこんなテンパッてるの私、意味わかんない。止まる事の無いループを脳内でぐるぐると巡らせながらひたすら焦るものの、やっぱりこのままではいられないのでもう一度軽く深呼吸をし、口を開く。



「き、昨日いた人達は同じ部活仲間とかですか?」

「そうです、皆で甘味処行く途中で」

「あ、そこの甘味処多分私がバイト始めたとこですよ!」



よしキタ良い話題!と感じたのはどうやら間違いじゃなかったらしく、それからエレベーターを降りてマンションを出てからも私達はその話題で会話に華を咲かせ続けた。状況打破出来た良かった…!



「ごっつ美味かったです!絶対また行こうて皆で話しとったんですよ」

「私も昨日採用されて色々試食させてもらったんだけど、本当に美味しいよねー!多分結構なシフトの数入れると思うから、いつでも来てね」

「また皆で行きますわ!あ、ちゅーか名前教えてもろてえぇですか?」



そんな流れで私が名前を言えば、彼、ユウジ君も自己紹介してくれて、さっきまでの気まずい雰囲気は嘘のように無くなった。一気に訪れた安心感に、思わず顔がふにゃりと気持ち悪いくらい笑顔になる。ごめんねユウジ君、こんな顔見せちゃって。でも今は許してください。



「ていうか、よく昨日私が同じマンションだってことわかったね?」

「なんか見たことあるなて思てたんですわー。亜梨沙さんがマンションの玄関とこで引っ越しの荷物運んでた時、俺ちょーど部活行く時で」

「確かにそんな状況だったら印象にも残るかー」



最初はどうなる事かと思ったけど、何はともあれこれは良い出会いの巡り合わせだ。学校の人達とはまた違った感じが結構落ち着く。まぁそれは多分、私が今時の女子高生の会話についていけないのが原因だと思うけど。…あれ、自分で言ってて悲しくなってきた。

そうこうしているうちに四天中に着いて、私の高校も隣だからそのまま甘味処でまた会う約束をして私達は別れた。



「あ、小春や!小春ぅぅーー!!」

「朝からキモいねん、近付かんといて!!」



その直後背後からそんな会話が聞こえて、思わず勢いよく振り返りそうになったけどそこはなんとか堪え、私は再び歩き始めた。…ユウジ君、まだまだ色んな人格があるみたいです。
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