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「えっとー…何事?」

「反抗期やぁあぁ財前が反抗期ぃいいぃ」

「お、落ち着いて」



秋も深まり、和菓子が似合う季節になった今日この頃。先日私の高校で行われた体育祭、皆の学校で行われたテストも無事終わり、ここ最近は緩やかな日々を送っていた。でも、そんな日常が今、私のバイト先である甘味処で、謙也君によって崩された。とにかく、カウンター席に座ってる乱心気味な彼に落ち着いてもらうために、まずは暖かいお茶を出してみる。一体どうしたんだろう?



「何があったの?」

「…財前が反抗期なんですわ」

「それって結構前からじゃない?」

「トドメ刺さんといて亜梨沙さん!」

「あ、ごめん」



1人で此処に来るのもそうだけど、何よりこんなに思い詰めてる謙也君はとても珍しい。しかも悩みの種はどうやら光君の事みたい。確かに光君は謙也君に対しては結構ツンツンしてるけど、それも本当は謙也君を慕ってるから出来る事であって、本気じゃない事くらい皆知っているはずだ。なのにこんな状態になってるって事は…。



「喧嘩?」

「俺は悪くないっすわぁああ!」



うん、これしか思い浮かばない。そりゃあ男の子同士だしたまには喧嘩の1つや2つあっても不思議じゃないけど、流石に此処まで本気で悩んでるのはちょっと考えものかもしれない。



「何があったか話せる?」

「…聞いてくれます?」

「私でいいなら是非」



そう言うと謙也君はお茶を一口啜った後、ゆっくりと口を開いた。



***



それは、つい先程の部活中に起こった事だった。



「(よし、ほなはよ行くか!)」



テニス部3年生の元レギュラーは、引退してからというものの部活にはほぼ毎日顔を出し、後輩指導に励んでいた。それは謙也も勿論例外ではなく、この日はたまたま日直に当たっていた為出遅れてしまったが、まさにこれから向かおうとしていた。

自分達の後を引き継ぐ後輩には、是非先輩の力を盗んで今年の大会以上の成績を残して欲しい。そんな気持ちでいっぱいな謙也を含めた3年生は、それはそれは楽しく、かつ真剣に指導に向き合っていた。



「あぁー!謙也やっと来たー!」

「すまんなぁ遅れて、頑張っとるかー?」



謙也がそんな言葉を発しながらコートに入れば、遠山を筆頭とした後輩達はすぐに彼に近寄り、元気良く挨拶をする。現役時代のムードメーカーぶりは相変わらず健在で、後輩に囲まれている彼を見ている他の3年生達の表情も柔らかい。

しかしそんな中、本来彼を1番慕っているはずの人物が、唯一反応を示さずにいた。



「ざいぜーん、ほらほら謙也さんが来たでー!」

「…」

「財前ー?」



謙也が話しかけても財前は何も答えずに、ただひたすら壁打ちをしている。その様子を見て不思議に思うのは謙也だけではなく、全員が目を合わせて首を傾げた。



「どないしたん?財前」

「クールに磨きがかかりすぎとね」

「そーよっ、いつもなら謙也が来たら1番に毒吐いとるやないのっ!」



白石、千歳、金色がそう言うと、財前は壁打ちをやめ、横目で謙也を見た。そして、次に出た言葉はとても冷たいものだった。



「めんどいなら来んでえぇっすよ、別に」

「…は?」



突如放たれたその言葉に、コート内の空気は一気に凍り付く。確かに財前は他の者に比べて冷静沈着でクールだが、このように棘のある言葉を本気で吐く事は今までになかったのだ。周りは勿論、言われた本人である謙也は酷く驚いた表情を浮かべている。



「な、なんやねん急に。意味わからへんわ」

「気楽なもんっすよねぇ。現役の頃は日直の仕事で遅れるなんて滅多になかったんに、所詮後輩指導は暇潰しすか」

「ちょ、財前どないしたん?」



いつもの彼らしからぬ幼稚な言い分に、一氏も焦った様に止めに入る。しかし、これには流石の謙也もカチンと来たのか、一氏を退けて財前に詰め寄った。



「俺がお前らを蔑ろにしとる言いたいんか」

「自覚しとるんなら話は早いっすわ。だるいでしょ?後輩指導なんて」

「機嫌悪いのか知らへんけど部長が何言うてんねん、ちっとは考えろや」

「どうせ俺は白石部長みたいに完璧やないし、先輩らみたいに特別な技があるっちゅー訳でもないし?謙也さんも思っとんのやろ、俺に部長なんて無理て」

「ええ加減せぇよお前!」

「はいはい2人共そこまでにしとき」



財前に掴みかかった謙也を白石が離すが、2人は依然として睨み合っている。



「もうええわ、そんな事言うならもう来んわ。勝手にやってろや」

「謙也、ムキにならんと」

「うっさいわ!」



そして痺れを切らした謙也はそのまま踵を返し、校門に向かって走り去って行く。コートには何とも言えない気まずい雰囲気だけが取り残され、2人の初めての本気の喧嘩に周りの者は首をすくめ、どうしたものか、と困ったように眉を下げた。
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