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「…ごめん、挫折しそう」

「ただでさえ迷惑かけとんのに更に亜梨沙さん困らせるとかマジ謙也さん死ねや」

「辛辣!しかもなんで俺限定やねん!」

「勉強嫌やーー亜梨沙んとこのお菓子食いたいーー」



そんな訳で、約束通り謙也君と金ちゃんに勉強を教える為、今は蔵君の家に皆で集合しています。

蔵君の家は流石というべきか、私達全員が入っても全然窮屈に感じないくらい広いし豪華だし綺麗だし、おまけに良い匂いまでする。1つの机に皆で円になって勉強をするのはなんだか楽しくて、これなら分からない所もすぐに聞き合えるからはかどりそうだな、…なんて思ったのは、開始から15分くらいまでの話だった。



「ほら金ちゃん、折角亜梨沙さん教えてくれとるんやから真面目にやり」

「そうよ金太郎さん、今しなきゃ後が辛いわよ!」

「小春の言う通りや。亜梨沙さんの堪忍袋の緒が切れる前にやらなあかんでー」

「勉強は積み重ねが大事ばいねぇ」



蔵君、小春君、ユウジ君、千里君の保護者組が、うなだれている謙也君と金ちゃんにそう声をかける。ちなみに銀さんは隅っこの方で1人黙々と集中してます。んー、別に怒るって事はないんだけども…どうすれば理解してくれるか、それを考えるのが少し大変かもしれない。謙也君はまだどうにかなりそうだけど、問題は金ちゃんだ。そう悩みながら金ちゃんが持ってきたテキストを見ていると、突如私と金ちゃんの間に蔵君が入って来た。



「自分の分片付いて来たんで俺も手伝いますわ。亜梨沙さん、見して下さい」

「うん、ありがとう」



とても頼もしい提案をしてくれた蔵君に感謝。正直、私よりも蔵君の方が絶対に要領も教え方も良いだろうし、こうなると私は必要無い気がするんだけど…そこん所どうしよう。あれ、自分で言ってて情けない。



「あーもう!覚えられへん!」

「謙也さん理解力ないんすから、せめて暗記力くらいつけたらどうすか」

「なんかお前今日一段と厳しいなぁ、そろそろ俺泣くで」

「光ンは亜梨沙さんに勉強教えてもろてる謙也が羨ましいのよ!ね、光ン!」

「先輩うざー」



私がちょっと遠い目をしていると、すぐ横からそんな会話が聞こえた。えぇ、私に勉強教えて欲しいって…それはないでしょう。光君、私の下手な教え方間近で見てたはずなのに。



「別に俺は教えてもらわなアカンほど馬鹿やないし、謙也さんと違うて」

「財前、お前そろそろそこに直れや」

「ほーら喧嘩は駄目ばい。亜梨沙さんが困っとるとね」



2人の仲裁に入ったのは千里君で、止めてくれたのは良いんだけどさっきから彼は勉強をしていない。しなくても授業だけで出来るタイプなのかなぁ、と疑問の眼差しを向けていると、ちょうどパチリと目が合った。



「俺の顔になんかついとっと?」

「あ、いや。千里君は勉強しなくて良いのかなぁと思って」

「せやなぁ、授業にも大して出てへんのにえぇんか?」



私の言葉に同調したのはユウジ君だ。えぇ、授業にも出てないんだ…生粋の天才型?なんか皆の事知れば知るほど凄いなぁって思う。そうして千里君の返事を待っていると、彼は少し照れ臭そうに頭をポリポリとかきながら言葉を紡いだ。



「んー、運がいいとね」

「運?」

「ウチの学校、記号問題がほとんどばってん、たまたま当たる事が多いけんね。それで助けられてるったい」



え、え、え!それで今までテスト乗り切ってきたって事?え、それってある意味凄いよね、いやある意味じゃなくても凄いよね!私が驚きと感心を全面に出してると千里君は、そりゃ前日は見直しくらいはするけんね、と遠慮がちに付け足して来た。



「やっぱ私いても意味ないんじゃ…」

「そんな事あらへんてー!ちゅーか勉強会なんて亜梨沙さんと一緒にいたいが為の口実やし!アタシ達亜梨沙さんがおるだけで嬉しいんやでー!」

「そ、そう?」

「亜梨沙さん、謙也さんみたいな馬鹿の相手はもうえぇから、俺とコンビニ行きましょ」

「ざーいーぜん、我儘が過ぎとるで」



小春君に言われ、光君に誘われ、それを蔵君が注意して。和やかなのかそうでないのか、よくわからない雰囲気に苦笑する。でも、それからどんどん話は発展してって、最終的に勉強会はどんちゃん騒ぎとなった。



「…銀さん、お疲れ様だね」

「ほんま集中力のあらへん奴らや」



テキストやら筆記用具やらが飛び交う様を銀さんと一緒に見つめ、目を合わせ、深い溜息を吐く。あのー、皆ー、勉強はー…?という呟きなんて聞き取ってもらえるはずがなく、結局私は蔵君のお母さんが用意してくれたお菓子を1人もぐもぐと食べるのであった。
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