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「あーまさかリレーに出ることになるなんてー…」

「ドンマイやな。応援しとるで」

「はぁ…」



家の事が落ち着いてからしばらくして、夏休みはあっという間に終わり、学校が始まった。この学校は夏休み明けすぐに体育祭が開催される事になっていて、種目は色々あるのだけれど…私は運悪く体育祭の目玉とも言える、400メートルリレーに出場することになってしまった。リレーに参加する選手は4人、補欠は2人。まさかクラスの女子のあの人数から私がはずれくじを引くなんて予想もしていなかっただけに、ショックは中々大きい。



「そない落ち込まんでも、亜梨沙足遅くないやん。特別速いっちゅーわけでもあらへんけど」

「だからよけいに嫌なの!中途半端じゃん!」

「亜梨沙ちゃーん!こっちで練習しよー!」

「ほら、呼ばれとるで」

「うぅ…はーい…」



香菜子にとっては他人事だからいいだろうけど、私からしたら全校生徒に平凡さを晒す機会なんだ。いや、平凡1番だよ?平凡万歳だよ?でもなんかなぁ…。

そんな事を思いながら肩を落として違う友達の方に向かっていると、亜梨沙、と香菜子に名前を呼ばれた。だから私は素直にもう一度香菜子に振り向く。



「元気になったみたいで良かったわ。リレー、頑張りや」

「…うん!」



するとそこには、笑顔で手を振りながらそんな言葉を言ってくれた香菜子がいて、私はそれがあまりにも嬉しくて、さっきまでの落胆が嘘のように飛んで行った。単純で平凡な私だけど、そういえばこんな自分が割と好きなんだよなぁ、と皆の事を思い出しながら、改めて感じた。





***





「大事件や、これは」

「せやなぁ」

「ほんま笑えへんわ。深刻やで」

「流石になぁ」

「…なんやねん、18点て!!」



一方、お隣の四天宝寺中学校3年2組では、謙也の赤点の答案用紙が彼自らの手によって、思い切り机に叩きつけられていた。前の席の白石は溜息を吐き、立ち上がり嘆いている彼を宥めるように座らせる。周りのクラスメイトはそれを見てツッコんだり笑ったりと和やかな雰囲気だが、彼にとってこれは死活問題だ。本人も自覚している通り、笑える話ではない。



「白石…どないしよ…」

「先生がこうやって確認テストしてくれただけ有難いと思わなあかんやろ。このままほんまのテスト受けとったらお前撃沈しとったで」

「せやけどー…」



お隣の高校では賑やかな体育祭が開催されるというのに、ここではそれと同時期に中間テストが行われる。今回はその為の確認テストを行ったのだが、結果、謙也は苦手科目の世界史で悲惨な点数をとってしまったのである。



「あーどないしよ…って、おいっ!白石、あれ!」

「なんやねんいちいちうっさいなぁ」



点数の事で落ち込んでいたかと思うと、謙也は外を見るなり急に興奮しだし、白石の肩をバンバンと叩きながら話しかけた。その変貌に白石は心底面倒臭そうに相槌を打ち、仕方なく窓の外に目を向ける。



「あれ!あのグラウンドで練習しとるの亜梨沙さんやん!」

「いやこっから見えるてどんだけ目えぇねん。逆に引くわ」

「俺えぇこと思い付いた、亜梨沙さんに勉強教えてもらうわ!」

「はぁ…」



2人の教室がある校舎の位置からは、ちょうど隣の、すなわち亜梨沙の高校のグラウンドが見える。しかし見えるといえど個人を把握できるほど近くはなく、白石も視力はいいがそれを遥かに上回り、かつ即座に亜梨沙だと断定した謙也に対しては若干引き気味だ。



「…で、どれが亜梨沙さんやねん」

「あれや、お団子にしとって長袖半ズボンの」



しかし、やはり気になるには気になるのか。白石は目を凝らしてその特徴通りの女の子を探し始めた。15秒後、彼の目にはしっかりとその少女が入った。やはり顔までは正確には分からないが、雰囲気や背格好で亜梨沙だと自信を持って言えるほどの信憑性はある。



「…俺も対外やなぁ」

「こっから叫んだら聞こえるやろか!?」

「アホ、変な行動せんといて」



傍でギャーギャーと騒ぐ謙也をあしらいつつ、白石は目を細めて亜梨沙の姿を見つめていた。それほどの速さでは無いにしろ必死に走っている彼女に、白石は優しく、気が抜けたように微笑んだ。



「ほんまに良かったわ、亜梨沙さん」

「白石ー!!どないしよーワイテストやばいーー!!」

「金ちゃん、まだ授業中やで!入って来たらあかん!」

「あーもー、うっさいで2人ともー」



空は秋晴れ、心機一転するにはもってこいの天気だった。
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