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「ちょ、財前、急に降りるのはあかんやろ!ケツごっつ痛いわ!」

「なんで謙也さんとシーソーで遊ばなあかんのや、気持ち悪」

「敬語敬語ー!忘れとるー!」

「うわっ金ちゃんやめっ、目に砂入るばい!」



荒い息が口から吐き出され、全身から滲み出るように汗が流れて来る。そうして全速力で走って辿り着いた場所は、私達の学校の近くにある小さな穴場的な公園だった。



「亜梨沙さん、お疲れ様です!すんません此処まで走らせちゃって」

「う、うん…大丈夫」



入口に立って皆のはしゃぐ様子を少し拍子抜けな感じで見ていると、気付いた蔵君が小走りで近寄って来た。更には、情けなくも膝に手を付いて息を整えている私を気遣って、背中をさすってくれる。その様子を見て皆もわらわらと近付いてきて、さっきの甘味処での光景が瞬時に思い出された。



「亜梨沙さん聞いて!皆アホなのよ!」

「アホ…?」

「亜梨沙さんを笑顔で迎え入れなあかんー言うて、急にテンション上げて遊具で遊びだしたの!あ、金太郎さんは素やけどね。不器用やろーかわえぇやろー」

「…うん、可愛いね」

「小春先輩、それ言わん約束やないっすか」



何だ、そう言う事か。確かに皆異常に元気だからびっくりはしたけど、あんまりにもシリアスな雰囲気でいられても更に気分下がっちゃうもんな。皆には笑顔が1番似合うし、考え方も皆らしいや。

そう思っているうちに疲れも引き、私達は草むらに輪になって座り込んだ。隣になった光君にはい、と何かを手渡されたかと思うと、それはペットボトルのジュースだった。ありがとう、と言ってから、ちょうど渇いていた喉を潤すために一口流し入れる。ふぅー、生き返るー。



「って、こんなゆっくりしてられないね。じゃあ、話そっか」

「俺達は全然ゆっくりでえぇですよ。ずっと聞いてますから」



ユウジ君の言葉にも同じようにありがとう、と返し、一度意を決したように深呼吸をしてから口を開く。

こっちに引っ越して来たキッカケが親の離婚だという事から、離婚の原因、あの人の再婚、正人の心情、他にもたくさんの事を、何も上手くまとめられないまま長々と話した。話しているうちに何回か言葉に詰まっても、誰かが大丈夫、と声をかけてくれて、そうしてくれる事でようやく全てを話す事が出来た。



「───て、いう事があったの。なんだか正直、自分でも具体的に何で悩んでるのかわからないんだけど、兎に角モヤモヤしてて」

「おん」

「誰かに言いたくてもどう言えばいいのかそれすらもわからなくて」



皆の相槌を耳に入れながら、また細々と呟く。あぁ、本当に何言ってるんだろう私。こんな退屈な話を黙って聞いてくれてる皆にひたすら感謝だ。



「なぁ、亜梨沙」

「ん?どうしたの?」



と、その時。今まで何も言わずに俯いていただけだった金ちゃんが、急に神妙な声色で話しかけて来た。唐突な事に私だけでは無く皆も金ちゃんに目を向ける。そして、



「ワイ、辛い」



そう、本当に辛そうに眉を下げた顔で言った。



「ワイのオトンがそないな奴になってしもうたら、ほんま辛い」

「金ちゃん、」

「ほんまのほんまに辛いねん。せやから、亜梨沙が辛くないはずないねん」



金ちゃんの頬に一筋の涙が伝ったのを見て、今まで抑えていた何かが一気に弾けたような気がした。さっきは皆と会えたのが、受け入れてもらえたのが嬉しくて泣いたけど、この涙は違う。



「亜梨沙、さっきからオトンとかオカンとか正人とかの話ばっかやん。でも、亜梨沙だって辛いに決まっとるやん」

「そんな事無いよ、だって、私が支えなきゃ」

「なんで亜梨沙だけは大丈夫みたいな言い方するん?ワイが亜梨沙やったら大丈夫じゃあらへん。だって、想像しただけでも、辛、」

「金ちゃん」



蔵君が泣き始めた金ちゃんの頭をポン、と撫でると、金ちゃんはそのまま嗚咽を零し始めた。

そういえばそうだ。私、―――自分の為に泣いてあげてなかった。本当は自分の事で精一杯なのに人の事ばっかり考えて、でもそれが負担になってるなら意味ないじゃん。まずは自分の事から片付けなきゃ、自分も大切にしてあげなきゃダメじゃん。



「…ごめん、止まらない」

「無理する事ないっすわ!」

「ほんま、不器用っすね」



右隣の光君、左隣の謙也君から手が伸びてきて、そのまま2人に頭を抱えられる。光君は優しく、謙也君はワシャワシャと撫でて来て、その暖かさが体の全体に沁みた。



「亜梨沙さんが家族を守るっちゅーなら、そんな亜梨沙さんを俺らが守ります」

「だから、思いっ切り甘えて来て下さいな!」

「せや、俺なんかマンションだって一緒なんですし!」

「誰かしら側におりますたい、心配なか」

「うむ」



蔵君、小春君、ユウジ君、千里君、銀さんがそう言ってくれたけど、既に私は返事を出来るだけの余裕を持っていなくて、ただ何度も頷く事しか出来なかった。でも、皆ならこれだけでも伝えられてるって勝手に信じてる。



「ありがと、ね」



的確なアドバイスを貰えた訳でも、特別何か物凄く感動する事を言われた訳でもない。ただ、私にとっては皆がこうしてくれる事だけでも充分で、嬉しくて、泣けてくるんだ。

いつまでも子供のように泣き続ける私と金ちゃんを暖かく見守ってくれる皆と、この先もずっと一緒にいたい、と、心の底から思った。
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