「作られた偶然も、んまぁありっちゅー話や!」 「な、なんで?」 「ほんまは最初から決めとったんですよ、この日は此処に来ようって」 両隣に立っている2人はそう言って私の背中を押し、もっと中に入るよう促した。店内には皆がいて、「おかえりー」なんて好き勝手な言葉を投げかけてくる。しかも、 「ユウジ君、え?その着物…?」 「じゃーん!実は面接受けとったんすわー!」 ユウジ君は皆と一緒の机ではなくカウンターの方にいて、男物の着物を着て立っている。状況が掴めない私は傍らで同じように立っている戸田さんと店長に目を向けたけど、2人はただただ微笑んでいるだけだ。 「サプライズ返しですわ」 その時、ふと横から蔵君のそんな言葉が耳に入った。―――あぁ、なるほど。 一瞬にして事を理解した私は、何故かちゃっかり仲間に入ってる正人に「馬鹿」と照れ隠しの言葉を吐いた。それに皆はやっぱり笑う。 「なー亜梨沙ー、ワイ腹減ったー」 「この新メニューが気になるばいね」 「うむ、非常に美味そうや」 光君と金ちゃんを除いて、それぞれ違う制服を着ている皆はもう私の隣の中学の生徒じゃない。 「亜梨沙さん、メニューの作り方教えて下さい!」 「ちゅーかユウジ先輩同じバイトするとかずるいっすわ、ただでさえマンションも同じなくせに。亜梨沙さん、高校生になったら俺もやるんで」 「ユウ君はずっと此処でバイトするって決めてたのよー!」 でも、考えてみればそんな事最初から関係無かったのかもしれない。もし皆が隣の中学じゃなかったとしても、何かがキッカケでまた違う出会い方をしていれば、きっとこんな風に呆れるくらい一緒にいるようになってたと思う。 「亜梨沙さんユウジー、注文えぇですかーってあぁもう、金ちゃん!あかんやろそれ!毒手出すで!」 「白石、お前まだ包帯巻いとるんか!」 「金ちゃんと会う時はな」 「姉ちゃん早くー」 確認の言葉なんていらない。先を約束する言葉なんていらない。ブルーになるような言葉なんていらない。 「…はーい、只今注文伺いまーす!行くよユウジ君!」 「イエッサー!」 目の前にある光景、これが私と皆の全てだ! 20120406 fin. →あとがき |