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「姉ちゃーん、置いてくぞー」

「待ってー!」



4月。新学期が始まり、私は2年生、正人は1年生になった。

いつもと何ら変わらないはずの通学路がなんだか違って見えるのは、間違いなく心が浮かれているからで、そんな私の心境を読み取った正人は呆れたように笑っている。



「ユウジとか朝一緒になんねーの?」

「高校遠いから早い時間に出なきゃいけないんだってー。残念だよね」



受験結果ラッシュの時と同じように、今週は入学式ラッシュだった。だから皆からはそれぞれの高校の制服を身に纏った写メが送られてきたりして、とても楽しい思いをさせてもらったのはまだ記憶に新しい。

エレベーターで下まで降りて玄関を出ると、外は既に春の匂いでいっぱいになっていた。マンションの前に咲き誇っている桜に気を取られていると、いつの間にか正人は結構前の方まで歩いていて、その行動に文句を付けながら急いで背中を追いかける。



「亜梨沙さん、正人さん」

「あ!光君!」

「おー」



そうしてしばらく歩いていると、後ろから聞き覚えのある声がした。すぐに私達の隣まで来たその声の持ち主は予想通り光君で、嬉しい偶然に顔を綻ばせる。確かに春休み中はあまり会えなかったけど、その短期間でなんだかグッと大人っぽくなったような気がして、男の子の成長は本当に早いなーなんておばさん臭い事を1人頭の中で考える。



「あいつらいなくなって寂しいんじゃねーの?」

「気持ち悪い事言わんといて下さい」



正人と光君に挟まれながらその会話を聞いて、思わず声を出して笑う。未だに寂しいと言っている金ちゃんと違って、光君は切り替えが早いなぁ。ただ言わないだけなのかもしれないけど。



「おー?」

「なんや、揃ってますがな」

「あー!」



と、その時。前方から社会人2人組が歩いて来るなぁと思っていたのだけれど、近付いてみるとその2人は千里君と蔵君だった。2人共学ランではなくブレザーを着ているから、遠目に見るとスーツと見間違えてしまったのだろう。…いや、それにしても大人っぽい。



「2人共社会人みてーだな」

「私も同じ事思ったー。写メでも見たけど、本当に大人っぽいね」

「ブレザーは着るのが面倒くさくてしゃーないですわ」

「ネクタイの結び方とか最初わからんかったばいねー」



制服の裾をつまんだりしながら2人はそう言うけど、何の申し分もないくらい似合っているのは言うまでもない。1つ不満を言うとすれば、それこそ大人っぽすぎるという事くらいだ。



「んじゃ財前、オサムちゃんと金ちゃんによろしゅう言っといてやー」

「忘れてなければ言っときますわ」

「亜梨沙さん、また店行きますたい」

「うん、待ってるよ!」

「じゃーなー」



それから私達は学校に、2人は逆方向の駅に向かって歩き出して解散した。少し歩いた所でチラ、と後ろを振り返るとそこには大きな背中で凛として歩いている2人がいて、なんだか雛鳥の巣立ちを見送る親鳥のような気分になった。…ていうのは言いすぎかな。
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