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「(おめでたい事、なんだけどなぁ)」



携帯の画面を見ながら、自分の中で素直に祝えない感情がある事に気付き、ハァと深い溜息を吐く。

高校の合格発表ラッシュだったこの1週間は、皆からのメールを待ち続ける毎日が続いた。結果、皆が皆第一志望校という訳にはいかなかったけれど、何処にも行く所が無いという最悪の事態には陥らなかった。小春君に加え、私の高校に見学に来た蔵君、ユウジ君、千里君は見事第一志望校に受かって、それはそれは喜びを露わにしていた。惜しくも第二、第三志望校になってしまった謙也君と銀さんも決して行きたくない高校という訳では無かったから、明るい様子で私に報告して来てくれた。

皆が行きたい所に進学できる。それだけで充分なはずなのに、何処かでウチには誰も来ないんだなぁと思ってしまった自分が酷く情けない。そんな気持ちを隠すようにベッドに顔を埋めたと同時に、コンコン、とドアをノックする音が耳に入った。だから仕方なく体を起こして「はーい」と返事をする。



「姉ちゃんの高校から届いた事前課題意味わかんないから教えてほしいんだけど、って…何不細工なツラしてんだよ」

「悪かったわね不細工で。あー、事前課題とか懐かしいなぁ」



ドアを開けて入って来たのは、晴れて第一志望校のウチの高校に合格した正人だった。正人の手には入学前に郵送されてくる事前課題の冊子があって、私も去年必死に解いたなぁと懐かしい気分になる。とりあえず気分転換の意味も込めて正人と一緒に机に向き合うけれど、折角解説をしているというのに肝心の正人が私の顔を凝視してくるばかりで、その態度に私はいい加減痺れを切らした。



「何!人が折角解説してるのにジロジロと見て来て!なんかついてる!?」

「俺達と一緒の高校になる奴、誰もいねーんでしょ?」



…可愛くない、本当に可愛くない。

一気に勉強を教える気が無くなった私は持っていたシャープペンを机の上に投げ出し、そのまままたベッドにダイブした。勿論正人に背中を向けて、完全にシャットアウト状態だ。後ろでは正人の呆れ返った声が聞こえる。



「俺に八つ当たりすんなよ。全員受かったんだろ?ならいーじゃん」

「良いよ、すっごく良いよ!嬉しいよ!」

「子供かって」



皆が受かって嬉しいという気持ちが本物な事には変わりない。でも、心のどこかで蔵君、ユウジ君、千里君の誰かと、または3人と一緒に送る学校生活を思い描いてしまっていたんだ。しかもそれが凄く楽しそうで、だから、それで…あぁーもうゴチャゴチャ!!

頭の中が爆発しそうになった私は枕に顔を思いっきり埋めて、背中をぽんぽん、と叩いてきた正人にまた可愛くない、と思いながらも、気持ちを整理するのに専念した。



「姉ちゃん、この前店でサプライズやったんだって?」

「私正人に言ったっけ?」

「謙也とかから自慢メール来た。楽しかったんだろ」

「…うん、めっちゃ楽しかった」



そこで出された話題で、ついこの間の幸せな空間が頭の中に蘇る。たくさん食べて、笑って、本当に楽しかった。あの時の蔵君や皆の言葉のおかげで、寂しいという感情はもう消えた。だから今の私のこの不貞腐れは、ただの我侭だ。自分の願いが思い通りにいかなかった子供の、迷惑な我侭。



「…ごめん正人、頭冷えてきた」

「ん。ちゃんと祝ってやれよ」

「うん、もう大丈夫」

「んじゃ勉強教えて」

「コンビニでなんか買ってくれるならね」

「うっわ、ケチくさ」



そう自覚した途端急に目が覚めた私は、ベッドから体を起こし再び正人と一緒に勉強机に向かった。可愛くはないけれどこんな弟を持てて良かった、と心の中で思った事は、正人には勿論言わない。

明後日は皆の卒業式だ。私の高校はもう月初めに卒業式を終えて生徒は春休みに入っているから、皆にも誘われた事だし恐縮ながらも参加してこようと思う。

その時には、ちゃんと笑顔でおめでとうと言えますように。
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