「結局お店のメニューも食べまくってしもてすんません」

「全然良いよー、皆いつも以上に凄い食べっぷりだったね」



帰り道。

あれからありとあらゆるものを食べるに食べた私達は、皆で食器やらを片付けて皆でお店を後にした。結構大きめのケーキと多めのおはぎを作ったつもりだったんだけど、どうやら皆の胃には物足りなかったらしく、また店長と戸田さんにお世話になってしまった。2人共笑顔で応じてくれたから良かったんだけどね。



「ほんま、送別会でもあんだけ食うたのに、自分の胃袋が恐ろしいわ」

「食べ盛りだもん、見てて気持ち良かったよ」



前方でいつものように騒ぎながら歩いている皆を、蔵君と肩を並べながら見つめる。心がほっこりする、とはまさにこういう雰囲気の事を言うんだろうなぁ。



「そういえば、皆受験の結果っていつ出るの?」

「俺は3月の頭に出ますわ。後の奴らは───…」



そう言って、皆の結果が分かる日を指折り数えて教えてくれる蔵君の横顔をなんとなく見つめていると、なんだか知らないけど急に寂しさが胸の奥から込み上げて来た。皆はまだ私の近くにいていつも通り騒いでいるのに、え、なんだろうこれ。

実際、皆とは中学と高校で学年が違うから学校も当たり前に違うし、バイトの時やあらかじめ約束をしない限り会える事はない。でも、それだけでも充分に楽しかったからこそ今もこんな風に一緒にいるのに、皆がバラバラになるという事が凄く寂しい。皆も私も今まで通り変わらないはずなのに、何でかな。



「亜梨沙さん?」

「…あっ、ごめん」

「何寂しそうな顔しとるんですか」



そんな私の気持ちを表情から汲み取ったのか、ふいに蔵君はその端正な顔立ちで覗き込んで来た。だから慌てて反応して何も無かったかのように振舞うものの、蔵君には全て見透かされているのか真剣な目を向けられる。…敵わないなぁ。



「ん、なんかわかんないけど、いきなり寂しくなっちゃって。おかしいよね、皆が卒業しても今更この関係が変わる事なんてないのに」

「俺達が卒業する事が寂しいんですか?」

「んー…よくわかんないや!」



これ以上考えても無駄な事はわかってるし、いずれ慣れればこの寂しさも消える。だから私は蔵君に心配を与えないようにする為にも、無理矢理笑顔を作ってこの話題を終了させようとした。

のだけれども、蔵君はそれを許してはくれなかった。



「…蔵君?」

「亜梨沙さん、大丈夫」

「あの、蔵君。物凄く恥ずかしいんですけれども」

「あぁーー!?何やっとんねん白石ぃいいぃいー!!」



ふわり、と全身を包んだ清潔感のある香りに、一瞬にして体が強張る。何故か蔵君は私を優しく抱きしめた後、耳元でそんな破壊力のある言葉を囁いてきました。何この展開。更に前方ではこの光景に気付いたのであろう謙也君が叫び、全速力で走ってくる音が聞こえる。



「亜梨沙さん、あかんてこないな奴に!!妊娠するで!」

「お前は俺を何だと思っとるんや」



ベリッ!という効果音が付く勢いで謙也君は私を蔵君から引き剥がすと、「何もされてないすか!?」と両肩を持って詰め寄って来た。その後ろには光君もいて、いつもの毒舌を蔵君に発している。で、金ちゃんも来て、千里君も来て、小春君もユウジ君も銀さんも。



「…あははっ」

「え!?どないしたんすか亜梨沙さん、やっぱ白石になんかされ、っ!?」



全然大事じゃないのに、さもそうであるかのように駆けつけて来た皆の表情を見て、思わず私は笑い声を上げた。それに私の真正面に立っている謙也君はまた焦ったように詰め寄って来たから、その近さを利用して彼に抱きついてみる。普段自分からこういう行動を起こす事は全くないけれど、なんだか今は唐突にしたくなった。そうすると光君は、次は謙也君相手だからかますます酷い言葉を発し始めたけれど、今はそれも可愛くて仕方ない。笑ったり困ったり色んな表情を浮かべている皆が、本当に可愛い。

大好きだ。



「ちょ、ちょちょちょ亜梨沙さささんんん」

「亜梨沙さんは小悪魔ばいねー」

「え!?亜梨沙悪魔なん!?」

「謙也はん、顔が茹でダコみたいや」

「謙也ったら照れちゃってーもおー!」

「亜梨沙さんに抱き付かれるなんてずるいで!小春と同じくらいに!」

「つーか謙也さんマジで死ねや」



チラ、と謙也君の肩越しに蔵君を見つめれば、彼はやはり皆を見守るように微笑んでいた。この空間を、心底愛しいと思った。
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