それから手早く課題を終わらせ、私は3人を引き連れて校内を適当に回り始めた。

此処の高校は四天宝寺ほど広くは無いにせよ割と創立されたばかりで新しいので、3人は校舎の綺麗さにただただ感心している。確かに凄く綺麗だよなぁ、私も下見に来た時びっくりしたもん。そんな風に約1年前の自分を懐かしみながら歩いていると、ふいにユウジ君は「あ」と声を上げて立ち止まった。だから私達もつられて立ち止まり、ユウジ君を不思議な顔で見つめる。



「テニスコートの設備も整っとるなぁ!」



ユウジ君は満面の笑みを浮かべるなり、ちょうど近くの窓から見下ろした所にあるテニスコートに身を乗り出すように見入った。その様子に私と蔵君と千里君は目を合わせて笑い、同じように窓から身を乗り出す。



「ほんまやなぁ。此処の高校のテニス部も強いんですか?」

「んー、そこそこだと思うよ。凄く活躍してるって話は柔道部以外聞かないなぁ」

「でも良い環境だけんね」



つい今しがたユウジ君の事を笑っていた2人も、実際にテニスコートを目にするなり同じように笑顔になって、それもまた微笑ましかった。本当に皆はテニスが好きなんだなぁというのを改めて感じさせられる。



「間近で見てみたいばい」

「良いよ良いよー、行こっか」



しばらくして千里君が私の方を見てそう提案して来たので、次はテニスコートをもっと近くまで見に行く事になった。もはや下見というよりかはただの探検みたくなってるけど、まぁこれも良しとしましょう。

適当に他愛も無い話をしながら玄関までテクテクと歩き、それぞれ外靴に履き替える。重いドアを開けようと手をかければ、その上から蔵君が手を重ねて来て結局全部彼の力で開けてもらった。…な、なんてテクニック。蔵君にこんな事をされちゃそりゃあ女の子達は喜ぶに決まってる。いつだか謙也君から聞いた蔵君がどれだけモテるかという話を思い出して、私は内心そんな事を思った。

そんなこんなで、テニスコートに到着。



「うーっ、ちょっと寒いねー」

「風強いっすわー!」

「やっとるとねー」

「やっぱ設備綺麗やなぁ」



さっきよりもうんと近い距離にあるテニスコート見て目を輝かせている3人は、あの人のフォームが良いだのあの人のラケットがどこどこのブランドの新作だの、私にはわからない会話を繰り広げている。きっと受験勉強であまりテニスに触れる事すら出来ていなかったんだろう。ほんのひと時かもしれないけど、少しでも癒されるならそれに越した事は無い。

その時、テニスコートの中心で部員に指示を出していた部長っぽい人が、ふとこちらに気付いて視線を寄越して来た。まず私と目が合って、次に隣にいる3人に移して。で、また練習に取り掛かるかと思いきや、その人はもう一度バッ!と物凄い勢いでこっちを見て来た。ダイナミックな二度見だなぁと悠長な事を考えている間にも、その人はどんどんこっちにやって来る。その行動に気付いた3人は目を合わせて首を傾げているから、どうやら知り合いではないみたい。と、なると?



「四天宝寺中のテニス部やねんなっ!?」

「はい、そうですけど」

「自分部長の白石君やろ!?それに元九州二翼の千歳君に、モノマネしとる一氏君!」

「え、俺の事まで知ってはるんすか?」

「当たり前やろ、お隣の中学の情報くらい掴んどるわー!いやー全国大会は惜しかったなー!」



あ、やっぱりそんな感じか。どうやら頭の中に浮かんだ私の予測は当たっていたらしく、その人は3人をテニス部とちゃんと認識していた。そっかぁ、皆全国ベスト4のレギュラーだもんなぁ。そりゃあ名前と顔くらい、しかも隣の中学となると知られてても不思議じゃないよね。

興奮する部長さん(で、合ってたらしい)と笑顔で話をしている3人を交互に見ていると、どうやら話が合ったのか3人はそのまま練習に少しだけ参加する事になった。この3人となると此処のテニス部の人も大歓迎なのか、積極的にシューズやラケットを貸していた。



「ほなちょっと行ってきますわ」

「亜梨沙さん見とってなー!」

「不思議な事になったばいー」

「うん、見てるよー。頑張ってね」



千里君だけはちょっと気だるげな雰囲気が感じ取れたけど、いざ打ち合いを始めるとやっぱり生き生きとした表情を浮かべていた。だから私も思わず3人の姿を写メで撮り、同じように笑顔を浮かべた。うん、良い表情!
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