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「正人ー、夜食作ったけど食べる?」

「おぉ、あんがと姉ちゃん」

「わかんない所あったら教えられる範囲なら教えるから、頑張ってね」

「おうよー」



軽く会話を交わしてから眠そうな正人がいる部屋を後にして、そのまま自室に戻る。

時期は冬休み、年明け前。世間はついこの間までクリスマスだのなんだのと騒いでいたけど、受験生が家にいるウチはひっそりと少し豪華な夕飯をお母さんと作って、買って来たケーキを食べて、聖なる夜は終了した。バイトももう三が日が終わるまでは無いから、多分今が1番ゆっくり出来る時期だと思う。



「…皆、元気かなぁ」



部屋に着いてベッドに潜ったら、ふいにそんな呟きが自分の口から出た。結局皆とは正人の三者面談の帰りに寄ったマックで会ったあの日以来、携帯でちょくちょく連絡は取っているものの実際には会っていない。たまに光君が1人でお店に来てくれたり、登校する時に偶然ユウジ君に会えたりする事が唯一の交流だ。

受験はつい1年前に経験したばかりだから、その辛さは充分にわかる。定期的に行われるテストで出された結果が悪ければ悪いほど落ち込むし、しまいには息抜きの方法さえ忘れちゃうんだよなーあの時期って。だからよくお母さんとかに八つ当たりしてたっけ、とたった1年ではあるけれど妙に幼く感じるかつての自分に、思わず苦笑する。

と、その時だった。



「窓開けて下さい…?」



携帯に1通のメールが入り、相手は光君で内容はそんなものだった。急にどうしたんだろうと不思議に思いながらも窓から外を見ると、そこにはなんと光君がいた。時刻は20時前、テニスバッグをしょっている所からして多分部活の帰り道だろう。

私は光君に待ってて、と身振りで合図をした後、部屋着の上にアウターを羽織って急いで外に出た。



「光君!」

「すんません、急に」

「ううん、それは大丈夫だけど…」



こんな寒い中話すのもなんだから、とりあえずマンションのロビーまで案内して、そこにあるソファに2人で座る。家から出る時にひったくるように持ってきたカイロを手渡せば、光君はそれを手や顔に当てたりして暖を取った。



「わざわざ家まで来てくれるなんて、なんか大事なことでもあった?」

「いや、俺んちと亜梨沙さんちそう遠いわけやないし、久しぶりに会いたかったっちゅーのも兼ねて来ました」

「そっか、ありがとう」



私の言葉に光君は少し照れくさそうに「お礼言われる事ちゃいますわ」と言った後、本題に入るのかこちらに体を向き直して来た。



「受験が終わった直後、先輩らに送別会するんす」

「送別会?」

「送別会自体は近くのホテルで保護者込みでやるんすけど、その打ち上げでまた亜梨沙さんの店使うてえぇですか?」

「え、うん、全然良いよ?いつもの事でしょう?」



そうして改めて聞き直してきたその内容はあまりにも聞き慣れすぎているもので、私は思わず首を傾げた。でもそれには続きがあるのか、光君は遠慮がちに再び口を開いた。



「サプライズしたいんすわ、あの人らに」

「あぁー、なるほどね」

「無理も迷惑なのも承知なんはわかってます、協力してもらえますか?」



蔵君の後を引き継いで、金ちゃんの面倒をほぼ1人で見て来て、この短期間にどれだけこの子は苦労してきたんだろう。前に謙也君と喧嘩した時以来弱音は吐いてこないけど、きっと今でも思う事はいっぱいあるんだろう。



「そういう事なら任せてよー、張り切るんだから!」

「ほんまっすか?」

「可愛い後輩達をお祝いしたいのは当たり前だよ」



普段は後輩扱いなんてあまりしないのに、こういう時だけお姉さんぶってみる。だって私の方が助けられる事多いしね、恩返しの意も込めてここは張り切ろう。



「すんません、よろしくお願いします」

「うん!勿論この事は内緒でしょ?」

「はい、口滑らしそうだから金ちゃんにも言ってません」

「おっけー」



そうと決まれば、年明けのバイトまで大体の構想を練っておかなくちゃ。店長に特別にキッチン使わせてもらったり出来るかも聞こうっと。

そんな風に、任されるなり急にやる気を出した私を隣にいる光君が優しい目で見つめていた事など、知る由もなかった。
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