「それでね、なぜ今日がチーズの日になったかというとね。およそ1300年前、文武天皇が現在のチーズの元祖の“蘇”をつくらせたのが旧暦10月、つまり今の11月だったということで、覚えやすい日として11月11日が記念日に定められたんですって!」

「わぁー、なんか複雑だねぇ」



ユウジ君宅に着き、お母さんに挨拶した後、私と光君は皆がいるリビングに足を運んだ。皆はおかえり!と声を揃えて出迎えてくれて、それに返事をした後は、まずチーズの日の由来を聞く為に小春君の隣に腰を降ろす。すると小春君は事細かに説明してくれたものの、…なんせ歴史は苦手だ。正直いまいちわからなかったけど、まぁいいや。ありがとう小春君。



「明日もバイトあるとー?」

「ううん、明日は休みだよ」

「あ、せや亜梨沙さん!うちのおかん昨日なんか白玉粉っちゅーの買って来たんやけど、それって和菓子やねんな?」

「へ?うん、白玉は和菓子だけど」



千里君と他愛もない話をしていたら、急にユウジ君にそんな事を聞かれ思わず首を傾げる。白玉といえば、白玉ぜんざいとかよく光君が食べてるよなぁ。



「おかーーん!!白玉粉出しといてーー!!」

「はいよー!」

「ユ、ユウジ君?」



するとユウジ君はおもむろに台所にいるお母さんに向かってそう叫び、それには私だけでは無く他の皆もどうしたどうしたと騒ぎ始めた。騒然としている中とりあえずユウジ君に目を向ければ、彼は歯を剥き出しにした笑い方でこう言い放った。



「亜梨沙さんの手作りが食べたいねん!後で作って下さい!」

「それならワイも食べたいーー!」



…との事。更には、金ちゃんだけではなく他の皆も次々に便乗して同じ様な事を言ってくるものだから、結局その雰囲気から逃げ出す事が出来ず二つ返事で了承してしまった。いや、全然良いんだけどね?正直、粉があるなら作るのは私じゃなくても良いと思うんだ。お水入れて捏ねて茹でて好みの味付けをすればそれで終わりだしさ。そんなの誰が作っても一緒だし、だから期待されても困ると言いますか。



「金ちゃん良かったなぁ、亜梨沙さんの手作りやで」

「ごっつ嬉しいわぁ!!」

「金太郎さんの為にもたくさん作らなあかんわねっ、亜梨沙さん!」

「そうだね」



でも、見る限り皆は完全に浮かれてるし、その言葉を口に出すのはやめた。どれだけ簡単なものにせよ、皆が喜んでくれるならそれでいっか。

その前に、まずはチーズフォンデュが先だ!グツグツと煮立ったチーズと乱雑に切られた食材を見て、私は笑みをもらした。形は歪だけど、皆頑張って用意したのであろう事が簡単に窺える。



「亜梨沙さん、ブロッコリー切ったの俺なんですわ!」

「あはは、そうなんだ。じゃあブロッコリーから…って、あれ?謙也君、これ下茹でした?」



そこで浮かんだ疑問を投げかけながら、自信ありげな口調の謙也君に視線を移すと、そこには謙也君だけではなく、無数のクエスチョンマークを頭上に浮かべている皆がいた。…あれれー、よーく見るとじゃがいもも生のままだぞーあれー。



「あ、先に茹でなあかん感じですか、これ」

「蔵君なら知ってそうな気がしたよ」

「チーズリゾットは好きなんやけどなぁ、てっきりチーズに浸らせとる間に出来上がるもんだと思ってましたわ。ほなお前ら、やり直しやでー」



蔵君がお皿を持ち上げながらそう言うと、皆は残念そうにぐったりと項垂れた。キッチンに行けばユウジ君のお母さんが「あれ、あんた達どないしたん」と言うものだから、苦笑いしながら事情を説明するとそれはそれは盛大に笑われた。



「せやからおかんが手伝ってやろか言うたのにー」

「おかんの手は借りたく無かったんや!あーだこーだうっさいから!」

「借りなかった結果がこれなら世話無いわー、亜梨沙ちゃんに感謝せなあかんでー」



お母さんはお煎餅を食べながら笑い、極めつけにユウジ君の背中をバシッと叩いた。そして更に豪快に笑いながら自室に戻って行くお母さんの背中を、今度はユウジ君が恨めしそうに見ていた。なんだかんだでユウジ君も思春期なんだなーと、たった1個しか変わらない年の差の違いに微笑む。



「亜梨沙さん、下茹でってただ茹でるだけでよかと?」

「うん、ちょっと塩入れたりしてもいいし」

「あかんわー、アタシも料理研究して女子力高めなっ!」



私の両隣には千里君と小春君が立ち、沸騰させたお湯の中に一緒に具材を入れて行く。金ちゃんに料理は危険だから蔵君が見張ってて、ユウジ君と謙也君は気になるのか私達の後ろでせわしなく動いてて、光君と銀さんはダイニングテーブルに座ってなんとなーくこっちを見てる。

なんか、あれだ。大家族みたいだ。

そんな事を思って微笑ましくなりながら、私はひたすら茹で上がった具材をザルに上げてはお皿に盛り付けていた。
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