「ほーら正人!行ーくーよ!」

「うぅー…眠い…」

「折角もう用意したんだから二度寝しないの!」



翌日。亜梨沙は約束通り四天の文化祭に行く為に正人を連れて歩いているのだが、時は既に昼前だというのに彼は未だとても眠そうにしている。亜梨沙はそんな弟に呆れつつも、腕を引っ張りなんとか歩かせている状態だ。



「本場大阪のたこ焼きとかお好み焼きとかあるんだよ!」

「そんなんこっち来てからたらふく食ったっつーのー」

「皆だって正人に会うの楽しみにしてるんだから!」

「…マジか」



それまではどこかだるそうにしていた正人だったが、その言葉を聞くなり少し嬉しそうに顔を緩めた。その表情を見て、亜梨沙も同じように笑顔になる。

しばらく歩き続けてようやく前方に四天宝寺中が見えて来たのだが、流石お笑い学校と称されているだけあり、既にたくさんの笑い声が聞こえてくる。どうやら中々の盛り上がりを見せているらしい。



「亜梨沙さーん!正人ー!」

「お待たせー!」

「正人久しぶりやなぁ、元気にしとったか?」

「おうよ」



校門前に着くと、そこには謙也と白石が待っていた。彼らは同じクラスなのでお揃いのクラスTシャツを着用しており、亜梨沙はそれを見て一気にお祭り気分になったのを感じた。自身の高校の学校祭の時は家族問題でそれどころでは無かった為、この状況が楽しくて仕方ないのだろう。

そして亜梨沙と正人は彼らに案内され、最初に彼らのクラスである3年2組に辿り着いた。



「わー!豚まん?」

「はい、手作りちゃうけど美味いて好評の店で仕入れて来たんで、絶対食った方がええですよ」

「早速大阪名物だな」

「ゆっくりしてきや、俺達今休憩中やねん!」



謙也の言葉を区切りに、とりあえず4人は近くの席に腰をかける。そこに近寄って来たクラスの男子に注文を頼み、ものの数分で出て来た豚まんに亜梨沙と正人は顔を綻ばせる。



「いただきます!」

「うんめー!」



行儀良く挨拶をしている亜梨沙の隣で、正人は既に大口を開けて豚まんを頬張り始めていた。その味は、普段は割と大人しい彼が思わず軽く叫んでしまう程なので、よほど絶品に違いない。亜梨沙も同じようにひたすら美味しい、と連呼している。謙也と白石はそんな2人を見て目を合わせ、満足そうに微笑んだ。



「まあまあっすね。ウチんとこのたこ焼きの方が美味いっすわ」

「うおっ!?いきなり出てくんなや財前!」

「しかも聞き捨てあらへん単語やなぁ、それ」



そうして4人が和んでいると、何時の間に来たのか、財前が豚まんを口にしながら会話に入って来た。彼は他の席から椅子を勝手に持ち出し、4人用である席に無理矢理割り込んだ。三上姉弟は普通に挨拶を交わしている一方で、謙也と白石は若干気が重くなる。



「光君も休憩中?」

「だるくなったから勝手に抜け出して来たんすわ。正人さんどーも、久しぶりです」

「ん、久々ー」

「ほんで亜梨沙さん、たこ焼き教室から持って来たんでどーぞ」

「此処は持ち込み禁止やでー」



白石が呆れながら財前の首根っこを掴むが、彼にそれが効くはずもなく。結局それから豚まんとたこ焼きを食べ終えるまで、4人は一緒に過ごした。



「じゃあ、また後で会いましょ」

「亜梨沙さんも正人も楽しんでってなー!」

「勝手に帰らんで下さいね、絶対っすよ」

「うん、わかったー!」

「んじゃ」



しかし、流石にずっと一緒にいれるという訳では無いので、食べ終わるなり彼らは各々の持ち場に着いた。

亜梨沙は彼らのクラスを前日のうちにあらかじめメールで聞き出しておいたので、まずは全員に会いに行こうという事になり、少し浮かれた足取りで歩みを進めた。
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