16 「木下藤吉郎祭?」 「せや!」 謙也君と光君の喧嘩騒動も最早笑い話に出来るようになった、ある日の金曜日。皆は珍しく閉店間際に制服姿で来たかと思うと、急に1枚のチラシを手渡して来た。そのチラシには「第◯回木下藤吉郎祭開催!」という文字と共に、変なキャラクターの絵が書かれている。私はそれが何の意味を成すのかわからず聞き返したのだけれど、返って来たのは金ちゃんの元気な返事と笑顔のみだった。んー、理解してあげたい所だけどちょっと無理かなぁ。そう思い苦笑すると、同じ表情を浮かべた蔵君が前に出て来た。 「まぁ、所謂文化祭ってやつですわ」 「あぁ、文化祭かぁ!…何でこんな名前?」 「亜梨沙さんっ、それは触れちゃあかん所よっ!」 ツッコミ所は満載だけど、小春君にそう言われては仕方ない。だから私は無理矢理納得する事にして、もう一度チラシに目を通した。何々ー、一般公開は土曜の10時から15時…って、明日じゃん。これは招待されてるって事で良いのかな。その疑問を晴らす為に、チラシから視線を外して皆の顔色を窺う。 「亜梨沙さん、絶対来て下さい。なんなら家まで迎えに行きますわ」 「迎えなら同じマンションの俺が行った方がえぇやろ、お前は黙っとき!」 「えー、先輩はなんか駄目」 「なんかって何!?」 うん、良いみたいだね。騒ぎ始めた光君とユウジ君は小春君が仲裁に入ったから良いとして、私は明日の予定を頭の中で整理しよう。…っていっても、バイトが無い限り予定なんか別に無いや。あはは、寂しい女だなー私。なんて思っていると、千里君がふいに顔を覗き込んで来た。 「来てくれると?」 「うん、明日はバイトも何も無いし。正人と行こうかな」 「正人と会うん久々やなぁ!楽しみにしてますわ!」 咄嗟に喜びの声を上げてくれた謙也君を見て、そういえば正人に1番話しかけてくれてたのは謙也君だっけ、と思い出した。あの子心開くまで中々時間かかるから、謙也君には細かい所でも助けられた覚えがある。明日も是非たくさん話しかけて上げて欲しいな、と密かに心の中で思った。 「やったー!亜梨沙が来るならワイもっと楽しみやー!」 「ありがとう。今日は生徒公開日だったの?」 「うむ。非常に盛り上がりましたで」 「だろうねー」 言われてみれば、授業中も微かに歓声が聞こえた気がする。何処かでなんかやってるのかなぁとか思ってたけど、まさか隣でやってたとは。なんで気付かなかったんだろう。 「ほな、明日は校門まで行ける奴らで迎えに行きますわ。何時頃来れます?」 「じゃー12時で!正人朝弱いからさ。お昼ご飯食べに行くね」 「それならウチのたこ焼き屋で決まりっすわ。2年7組で待ってます」 「財前!!まだ話は終わってへんで!!」 「もうっ、ユウくんしつこいわよ!」 「何の騒ぎー?ってあら、貴方達来てたのね。いらっしゃいー」 と、また2人が取っ組み合いを始めた所で、間延びした声と共に裏から店長が出て来た。時計を見ればもう閉店の時間だし、多分店の暖簾を下げに来たんだろう。皆は店長の言葉に元気よく挨拶をし返し、じゃあそろそろ、と帰る支度を始めた。 「わざわざありがとうね。明日楽しみにしてるよ」 「何言ってはるんですか亜梨沙さん、外で待ってますよ」 「え、でもまだこれから片付けあるし」 「それくらい待っとるけん、気にせんでよかと」 蔵君と千里君の言葉に皆は意気揚々と頷き、眩しいほどの笑顔を浮かべながら出入口のドアを開けた。まさか待っててくれるなんて、少し悪い気はするけど今日はもう別れだと思っていただけに嬉しいなぁ。しかも、それを聞いていた店長が「それなら中で待ってて良いわよ」と言ってくださったおかげで、皆を外で立ちっぱなしにさせずに済んだ。 それから片付けは約30分程度で終わり、皆で外に出て、店長とは店の前で別れた。皆と歩く帰路はいつもより当然楽しく、明日はもっと楽しもう、と1人心の中で決めた。 |