「俺かてわかってますわ」

「(…蔵君が言ってたのはこういう事か)」



閉店時間の1時間前、19時。客足もそろそろ引いてきたこの時に、突如店内に駆け込むように光君が入って来た。さっきまでは蔵君が残していった言葉の意味が分からなったけど、今になってようやくわかった。そして光君はカウンター席に座り、ぽつりぽつりと話し始めた。ちなみにその席が謙也君が座っていた席と一緒で、思わず笑いそうになってしまったのは内緒だ。



「部員はキャラ濃いのばっかで上手くまとめれんし、先輩が引退した途端不安そうにする奴らばっかやし」

「皆同じ気持ちなんだね」



いつもより饒舌な所から、相当余裕が無い事がわかる。こんなに切羽詰まった光君を見るのは初めてだし、何より不安そうな顔が見てて辛い。まだ皆が引退して2ヶ月ぐらいだけど、その中でどれだけのプレッシャーを感じて来たんだろう。



「せやから、余裕そうな謙也さんを見て八つ当たりしてもうたんです。別にあの人から見たらそないつもりは無かったんに、なんかもう嫌になってもうて」

「謙也君は鈍感だけど、話せばちゃんとわかってくれるよ」

「それもわかっとるんすけど」



キリのない考えに対し光君は、あ゛ー!と嘆きながらテーブルに突っ伏してしまった。そんな彼の様子を見てた隣に座ってるお客のおばあさんと目が合い、思わず苦笑いする。これは追い込まれてるなぁ…。



「俺と素直なんて無縁ですもん、無理っすわ」

「でも素直にならなきゃいけない時だってあるでしょ?今回は光君の言い方も悪かったよ」



私がちょっときつめにそう言えば、光君は体を起こしゆっくりコクン、と頷いた。これで怒らせちゃったらどうしようと思ったけど、わかってくれたみいで良かった。なんて、上から目線で申し訳ないけども。



「2人なら大丈夫だって私は思ってるよ。ありきたりな言葉でごめんね」

「亜梨沙さんの言う事なら受け入れますわ」



ようやくいつもの光君らしさが戻って来て、私は安心してにっこりと微笑んだ。すると光君も小さく笑ってくれて、それからお店が終わるまで私達は話し込んだ。

2人なら大丈夫だ、という言葉に根拠が無い訳ではない。ただ言葉にするのは難しいというだけで、今までの2人の様子からそれは証明出来ると思う。皆と知り合ってまだ1年も経ってない私が言うんだから、間違いない。



「すっかり皆の相談役ね」

「相談に乗れてればいいんですけどね」



帰り際、今日の様子を見ていた戸田さんに言葉を投げかけられ、曖昧に微笑む。そうなんだよなぁ、1番大事なのはそこだ。上手い事を言おうとは思ってなくとも、ちゃんと皆にこの気持ちが届いてるのかが気になる。多分大丈夫だとは信じてるけど。



「それじゃあ、お疲れ様でした!」



またふざけ合う2人を見れる日が早く来ますように、と心の中で願いながら、私は帰り道をテクテクと歩いた。









「どあぁあー!?それ俺のやしアホ!何勝手に食っとんねん!」

「えぇやんケチ」

「ケチちゃうし!えぇー信じられへんーえぇー!?」

「うっさいわ謙也さん」



翌日、すぐに叶った願いを目の前で見る事が出来て、やっぱりこの2人はこうでなくちゃなぁと思った。目が合った蔵君は眉を下げて呆れたように笑っていたから、私はそれに対し満面の笑みを浮かべた。
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