「それで、此処に逃げ込んできたと」

「…何かすんません、駆け込み寺でもあらへんのに」

「ううん、それは全然大丈夫なんだけど」



謙也君の話を聞いた限り、確かに彼に悪い所は見当たらない。でも、多分…私が思うに、光君は寂しいんじゃないかなぁって思う。それこそ金ちゃんはいるものの、今まで一緒にやってきた皆が一気に引退しちゃったんだ。いきなり自分だけ取り残されて、不安じゃないはずがない。その中でも1番仲の良かった謙也君には、きっと誰よりも側にいて欲しかったんじゃないかなぁ。



「俺にはあいつの考えとる事が全くわからへんのや」

「んー…」



でも、こんな私の憶測でしかない事を易々と口に出していいのか、そこが難しい所だ。謙也君に言葉をかけてあげたい気持ちは山々だけど、光君の気持ちを考えると勝手に言っていいのか…ううーんどうしよう!どうすればいいのかいまいち踏ん切りがつかず、眉間に皺を寄せて唸りながら考える。



「亜梨沙さん、迷っとるなら言って下さい」

「…そう?」

「部活も飛び出してきてもうたし、今の俺には何のヒントもないねん。客観的な意見が欲しいんっすわ」



と思っていたら、謙也君からそんな言葉が投げかけられた。んー、本人がこう言うなら言ってあげた方がいいのかな。考えてみれば、これはただの憶測であって別に光君の気持ちを丸々代弁してる訳じゃないし、客観的な意見が欲しいというのなら、私のもので良ければあげよう。そう意を決した私は、ゆっくり口を開いた。



「多分、寂しいんだと思う」

「寂しい!?あいつが!?」

「うん。光君って案外寂しがり屋だよ?よく私の服の裾引っ張ったりしてくるし」

「それは亜梨沙さん相手だからやろ?」

「そんな事ないよ?」



自分で言うのもなんだけど、確かに光君の私への態度は中々のものだと思う。でも、いつもこのカウンターから皆の事を見ている限り、やっぱり光君は皆といる時が1番楽しそうだ。私がその類の言葉をやんわりと言うと、謙也君はうーん、と考え始めた。



「だから寂しいんだよ、きっと。急に1人になっちゃったんだもん」

「金ちゃんも財前も、1人にさせとるつもりは無いんやけどなぁ」

「残された方は先の事ばっかり考えちゃうんだろうね。今回は光君の言い方も悪かったと思うけどさ」



再び頭を捻らせ考え込む謙也君を見て、本当に仲間思いだなぁとしみじみ思う。じゃなきゃこんなに考え込まないだろうし、早く仲直りしてくれればいいな。



「すんません、おじゃましまーす」

「あれ?いらっしゃい」

「し、白石!」



するとその時、急に店のドアが開かれたかと思うとそこに居たのは蔵君で、やっぱここにおったか、という台詞から謙也君を探しに来た事が読み取れる。



「お騒がせしてすんません、亜梨沙さん」

「ううん、今の所他のお客さんもいないし大丈夫」



そう言えば蔵君は謙也君の隣に座り、疲れたように溜息を吐いた。そっか、謙也君抜け出してきたんだもんな、多分走って探し回ったんだろう。



「財前は怒って聞く耳持たへんし、お前は逃げ出すし、滅茶苦茶やで」

「…俺悪ないし」

「確かに吹っかけたのは財前やけど、あいつの気持ちも考えたり」



それから2人は話し込み始めたから、私はそっとお茶菓子を置いてその場を離れた。部内の出来事は出来るだけ介入しない方が良いだろうし、蔵君が来てくれればもう安心だ。



「ほな亜梨沙さん、失礼しました」

「またおいでね。謙也君、頑張ってね」

「はい、ありがとうございました」



そうする事10分くらいだろうか、意外と早く2人はお店を出て行った。これから学校に戻るかどうかはわからないけれど、謙也君ももう落ち着きを取り戻してたみたいだし多分大丈夫でしょう。そう思いながら2人の背中を見つめていると、ふいに蔵君が此方を振り向いた。



「亜梨沙さん今日も閉店までおります?」

「いるよ?」

「なら、よろしくお願いします」

「え?」



そんな意味深な言葉を吐いて、そのまま出て行った蔵君。私はというと彼の言葉の意味が理解出来ず、ただただ首を傾げるばかりだった。
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