「…どーしよっかな」



所変わりまして、トイレ。止みそうにない喧騒から抜け出して私は此処にやってきた。いや、別に逃げてきたとかじゃなくて、ただ単にしたくなったから来たんだけど(あれ、これ女としてしてもいい発言なのかな)。

トイレにいても皆の騒ぐ声はばっちり聞こえて来て、耐えきれずに此処でも苦笑する。この調子で行けば、確実に勉強会が再開されることはないだろうなぁ。私は勉強しなくてもテストはまだだし支障は無いけど、問題なのは騒いでる本人達だ。なんでも銀さんに聞いた所によると、テストは来週かららしい。…本当にいいのかなぁ、あのままで。ううん、駄目だ駄目だ。

そこまで考えた所で、私は仕切り直しに行く為に立ち上がり、トイレから出た。



「うわっ!びっくりしたー」

「え、あ」



でも、出てすぐの所には1人の女の子がいた(多分妹さんとかかな?)。私が勢いよくドアを開けたせいでびっくりしちゃったみたい。とりあえず謝らないと。



「あの、ごめんなさ「あぁー!クーちゃんの彼女やー!!」へ?かの…?」



と思って口を開いたものの言葉は遮られ、更に女の子は私を指差すなり急にそんな事を言ってきた。クーちゃんっていうのは多分蔵君の事だと思う。で、その彼女っていうのは…え、私?ん?どういう事?急な展開に脳がついて行かず、馬鹿みたいな声が口から零れる。



「だってクーちゃんの写真立てにお姉さんのプリクラ貼られとったもん!何回聞いても教えてくれなかったんやー」

「…あぁ!」



そういえばいつだか蔵君が1人で私のバイト先に来た時、プリクラ交換をした覚えがある。あの時は私は仕事中だったから渡せなかったけど、後日来た時にちゃんと渡したんだった。そっか、わざわざ貼ってくれたんだ。蔵君の部屋には入ってないから知らなかった。 …なんていう私の感想はおいといて、まずはこの子の誤解を解かなきゃ。その為に軽く腰をかがめて女の子の視線に合わせ、
説明を始める。



「私は蔵君の彼女じゃないですよ。ひょんな所から知り合いになって、この前プリクラ交換したんです。貴方は蔵君の妹さん?」

「え?そうなん?なーんだ、彼女ちゃうんかー。せや、妹の友香里っちゅーねん!」



私がそう言えば友香里ちゃんはつまらなさそうに口を尖らせ、そして笑顔で自己紹介をして来てくれた。蔵君よりはどちらかというと金ちゃんに似てる、明るくて素直な感じの子だ。私もその笑顔につられ、にんまりと頬が緩む。



「亜梨沙さん、と…?」

「あ。光君やー」

「おぉ、友香里か。久々やな」



その時、居間から光君が出てきて彼は私達の間に入って来た。光君は(というより、皆は、かな)やっぱり此処には何回か来てるのか、友香里ちゃんとは既に顔馴染みのようだ。



「光君、まだ騒ぎ収まらない?」

「謙也さんとユウジ先輩がヒートアップし始めたからまだしばらくかかりますわ。亜梨沙さん、ほんまにコンビニ行かん?」

「んー…いいの?」

「どうせこないな状況になったらもう勉強なんて出来へんし。ほな行きましょ」

「あ、ちょ」

「光くーん、ウチチョコ食べたいー!」

「はいはい買うて来るから。ほんまちゃっかりやなー」



こんな感じで結局私は光君に連行され、コンビニに行く事になった。でも、お財布が手元にないから取りに行こうと足先を変えたら、「自分が連れ出したんやから奢ります」と光君に言われ、そのままほぼ強制的に家を出てしまった。



「わわ、外からでも皆の騒ぎ声聞こえるね」

「ほんまうるさすぎ。もっと静かにしてほしいっすわ」



言葉では心底だるそうに毒を吐く光君だけど、実際の表情は穏やかでなんとなく楽しそうだ。だから私は素直じゃないなぁ、と心の中で呟き、笑った。



「何笑っとるんすか」

「いいや?光君は可愛いなぁと思って」

「亜梨沙さん、可愛いて言われて嬉しい男はおらへんで」

「大丈夫、普段は格好良いから」



私が素直にそう言えば、あろう事か光君は顔を赤くしてそっぽを向いた。…え、なになに可愛いよやっぱり!あまり見られないレアな姿に興奮して、ついこっちまで恥ずかしくなる。



「亜梨沙さんストレート過ぎ」

「あいたっ」

「あはは、やわらか」



更にはその可愛さに負けて思わず光君の顔をのぞきこんでしまったのだけれど、それは流石に駄目だったのか、両手でほっぺをつままれた。しかもそのまま引き伸ばされたりして、若干痛い。ひ、光君悪い顔してる!



「やっぱ亜梨沙さんは笑顔が1番すわ」

「散々いじめといてそれ?私笑ってないよ?」

「亜梨沙さんが楽しいならそれでえぇっす、俺達は」



…そんでもってまさかの不意打ちと来ましたか。一気に形勢逆転された気分だけど、その言葉は確かに嬉しい。だから私は小さくありがとう、と呟き、光君はそれに対し優しく笑った。そのせいで、冷房の効いてるコンビニに入ったにも関わらず私の頬は熱くなる一方だった。イケメンの笑顔の破壊力恐ろしい!
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