「つっかれたーあーあー…!」 「亜梨沙頑張っとったなぁ!お疲れさん!」 「さっき買うたジュースあげるから飲み」 「ありがとう幸江ー」 「ほら、そない格好したらパンツ見えてまうで」 地獄の体育が終わり、昼休み。いつも通り皆と一緒に屋上にお弁当を食べに来たのだけれど、扉を開けるなり急に疲労感が襲ってきた私は、そのまま地面に倒れるように横たわった。そんな私を見て沙希はわしゃわしゃと頭を撫でてきて、幸江はジュースをくれ、香菜子は起き上がらせる為に腕を引っ張ってくれて。3人の優しさにジーンとしながら、ようやくちゃんとした格好で地面に座った。 「ほな、いただきまーす!」 そして沙希の相変わらず元気な声で、昼食時間は始まる。今日のお弁当は珍しく正人が作ってくれたもので、中身は何かな、と少しわくわくしながら蓋を開ける。 「…おぉ」 「なんや亜梨沙、えらいボリューミーな弁当やな」 「うん、弟が作ってくれたから」 パカ、と開けると、そこにはご飯もカツもてんこ盛りのカツ丼があった。そのボリュームにまず幸江がつっこみ、続くようにして他の2人も覗き込んでくる。…正人、作ってくれたのはありがたいけど、年頃の女の子のお弁当にこんなボリューミーなものぶっこんでくるのはちょっと違うと思うよ。 そうは思いつつも折角作ってくれたんだし、カツ丼は確かに好物だ。もしかしてそこらへん考えてくれたのかな、と思うと、思わず笑みがこぼれた。そしてついていた割り箸を割り、いただきます、と手を合わせる。 「亜梨沙ー!!」 さぁ食べよう、とカツ丼を口元まで運んでいたその時、ふいに後ろから私の名前を呼ぶ大声が聞こえた。振り向かなくてもわかる、この声は… 「金ちゃん…」 「亜梨沙ー!!お願いがあるねん!!」 「亜梨沙さん、お願いします!!」 「相変わらずモテモテやなぁ」 一度お弁当を置いて後ろを振り向くと、そこにはフェンスにへばりつきながら叫んでいる金ちゃんと謙也君が。2人のその様に香菜子は苦笑しながらそう言って来たので、私は軽く微笑み返し、お弁当を食べる3人の側から離れてフェンスに近付いた。 「どうしたの?2人共」 「亜梨沙さん、食事中にすまんったい」 「ううん、大丈夫。昼休み始まったばっかだから」 「ほんま、ウチの先輩と後輩がアホですんません」 「亜梨沙!!」 気が付くと2人以外の皆もフェンスに集まっていて、2つのフェンス越しに皆と向き合うという異様な光景が完成された。なんだろうこの状況、と思いつつ、金ちゃんの私を呼ぶ切羽詰まった声にもう一度どうしたの?と返事をする。 「勉強教えて欲しいねん!!」 「べ、勉強?」 「すんません亜梨沙さん、俺達だけじゃ手に負えないんや」 「世界史が!世界史がぁあぁ!!」 両手を合わせて頭を下げてくる金ちゃんに、頭を抱えながら発狂する謙也君。ついでに蔵君も眉間に指を当てて皺を伸ばしている。…本当に何この光景? 「アタシ達、もうすぐテストなんですよー」 「ほんで、このアホ2人はピンチっちゅーわけで」 「俺達も頑張る予定ではあるばい」 「でも、自分の勉強もありますし。ちゅーかそれ以前に、俺は金ちゃん相手に勉強教えれる気がしないっすわ。放り出す自信しかあらへん」 「迷惑なのはわかっとります。誠に申し訳ない」 「亜梨沙さん、駄目やろか?」 次々と理由を並べられ、最後に蔵君の言葉で締め括られる。当人である2人は気まずそうに此方を窺っていて、その表情から本当にやばいんだなぁと思った。 「教えるのは構わないけど私だってそんな勉強出来るわけじゃないし、教え方だって別に上手くないよ」 「心配ないで!亜梨沙ごっつ教え方丁寧やから!」 「って、沙希!?」 「いっつもノートも綺麗にとっとるし、大丈夫やろ」 「頑張り事が増えてもうたな、亜梨沙」 と、その時。急に3人が便乗して来て、一気に私が勉強を教える事が確定されたムードになってしまった。…香菜子の最後の言葉が少しだけ憎たらしい。 「おおきにー亜梨沙ー!!」 「亜梨沙さん、お礼なんでもしますわ!」 「う、うん」 ガシャンガシャン!とフェンスを揺らしながら、喜びを露わにする2人。ていうか、謙也君は世界史だけみたいだけど、金ちゃんの場合ほぼ全教科な気がするのは気のせいでしょうか。だって蔵君さっき、俺達だけじゃ手に負えない、って言ってたし。凄く頭が良いって噂の小春君でさえ難しいんでしょ?それなのに私何かが役に立つのかな…。 なんて思っている間にも第1回勉強会の日程は着々と決められ、それと同時に四天宝寺中のチャイムが鳴り響いた。皆は私に挨拶をし、焦った様子で屋上から立ち去って行く。 「なんや、嵐のように来て嵐のように去ってったなぁ」 「いつものことやん」 「なー、弁当はよ食べようやー!」 とまぁこんな感じでどうやら、皆と勉強会をする事になったようです。ま、まぁ、不安要素はたっぷりだけど、任されたからには頑張りたい。勿論、自信は皆無です! |