「…はぁ」



ベッドに仰向けになりながら溜息を吐く、なんていういかにも悩んでます的な事をまさか自分がするようになるなんて、ついこの間までは思っても無かった。なのにここ最近、正確に言えばこっちに引っ越してきてからはそれの連続で、いい加減自分に嫌気がさしてくる。



「(パッとしねぇなー…)」



今更あの人に関わる気なんてこれっぽちもねぇし、この先会いに行こうとも思わねぇ。だから多分、この…モヤモヤ?みたいなのは、あの人に対してじゃない。と、すれば残りは。



「(…俺ってこんなシスコンだったっけ)」



姉ちゃんしかいねぇんだよなぁ。母さんもそりゃ気になるっちゃ気になるけど。

向こうのホテルに泊まった時はあんだけ声押し殺して泣いてた癖に、今じゃ無理してヘラヘラ笑ってる。何を聞いても、私は大丈夫だから、の一点張り。大丈夫じゃねぇの見え見えだっつーのに、そこを探るのは俺もまだ見ての通り安定してねぇから出来なくて。うっわ情けな俺。

姉ちゃんにあんな顔をさせたい訳じゃない。でも、どうしていいかわかんねぇ。



「だああぁーーもーー!!」

「正人ー、何1人で叫んでるのー。入るよ」

「っ、姉ちゃん?」



するとその時、すっげータイミングでロクにノックもせずに姉ちゃんが部屋に入って来た。いやいやなんか無駄に言葉に詰まるんだけど、と勝手に心の中で気まずくなってる自分がまた情けない。



「ねぇ、正人」

「ん?」

「私、大丈夫だから」



俺がどうしようか目を泳がせていると、姉ちゃんは急にいつもの「私は大丈夫」発言をしだした。それを聞いて、俺は一瞬またいつものかよ、と腹が立ちかけたけど、姉ちゃんの顔をよくよく見るとそこにはいつもの無理矢理作った笑顔は浮かべられていない。



「私には守ってくれる人がいる。だから精一杯正人とお母さんの事も守れる」

「姉ちゃん…?」

「ごめん、正直言うと今までは少し無理してた。でももう本当に大丈夫」

「…」

「これから一緒に色々頑張ろうね、正人」



あいつらのおかげか。俺は直感的にそう判断した。やけにうるさくてしょーもねぇことで騒いでるあいつらだけど、多分、いざという時は頼りになるんだろうなぁ。だから姉ちゃんこんな笑顔なんだ。そう勝手に全部納得した所で、俺も同じように笑顔を浮かべて返事をする為に口を開く。



「おう、頑張る」

「それじゃ、お母さん今日帰り遅いから一緒に晩ご飯作っといてあげよう!きっとお腹空かせてるだろうし、私も空いた」

「おう」



甘えっぱなしの弟っつーのも情けねぇからそれなりに頑張るけど、とりあえずは何も気にせず安心して良い、って事か。…優しいっつーか強引っつーか、さすが母さん似なだけあるなぁ。いつまで経っても変わらない性分を思うと、思わず笑顔が苦笑いになる。



「姉ちゃん、俺オムライス食いたい!」

「私卵巻くの下手なんだよねー。だから正人卵担当ね」

「えっ、俺あれ破けた事しかねぇんだけど」



でも、───姉ちゃんの弟で良かった、俺。

気が付くと変なモヤモヤは消えていて、俺達は2人で笑いながらオムライスを作り始めた。帰って来た母さんはこの光景を見て、めっちゃ笑顔でただいまって言ってきたから、俺達もめっちゃ笑顔でおかえりって言った。なんか知らねぇけど、幸せだなって、柄にも無く思った。
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