「(あと1時間、か)」 皆に話す、という約束をしたはいいものの、今はまだ仕事中な事に変わりない。だから私は、何処かで適当に暇を潰している皆と後から合流する事にし、とりあえず再び仕事を始めた。でも、緊張しているのか時間が経つのが凄く遅く感じる。閉店まで後1時間、閉店作業を含めれば約2時間後ってとこかな、皆に会えるのは。…あぁもう、待ち遠しいなぁ。 「亜梨沙ちゃん亜梨沙ちゃん」 「はい?」 「行って来なさい」 「…え?」 と、若干憂鬱になっていたその時。急に後ろから話しかけられたかと思うと、店長は急サラッとそんな事を言い放った。その突然の言葉の意味を理解できず、私は思わずまたアホ面で聞き返す。 「ほら、お店混んでないし私と戸田さんで人手は充分だもの。早上がりしていいわよ」 「いや、でも流石に申し訳ないです。これだけ長期休暇貰った後なのにまた勝手な都合で早上がりなんて」 「亜梨沙ちゃん?」 焦る私を余所に、穏やかな笑みで私の言葉を遮る店長。有無を言わせない笑顔に、口がキュッと締まる。 「私はね、人との関わりは凄く大事だと思うの。だから伝えられる時に伝えなきゃ。一分一秒でも早く伝えなきゃ、勿体無いわよ?」 「でも…」 「そうだねぇ、じゃあ次の新メニューに向けて何か良い案出して来てもらえるかしら?それでチャラにしましょう!」 「店長…」 「きっとあの子達もウズウズしてるもの。早く行ってあげなさい」 申し訳なさと嬉しさが入り混じって変な顔になる。でも店長はずっと笑顔で、私はその笑顔に向かって大きな声でお礼を言った。そして、背中を軽く押される。 「行ってらっしゃい、頑張ってね」 「はい!」 ロッカーに駆け込み、急いで着物から私服に着替える。あぁ、やっぱりスニーカーで来て良かった。どれだけ全力疾走しても足痛くならないや。とりあえず…蔵君でいいかな。皆が今何処にいるかを聞く為に、鞄から携帯を取り出す。 「あら、亜梨沙ちゃん!行ってらっしゃい!」 「はい、行ってきます!お疲れさまでした!お先に失礼します!」 店を出る間際に戸田さんにも挨拶をして、私は急いで道を駆け抜けた。体育でもこんな頑張って走る事無いのに、何を必死になってるんだろう。きっと今の私の顔は酷いに違いない。でも、誰かの為にこんな必死になれる自分も悪くないかも、って思った。 |