「亜梨沙さん!」



ガタッ!と音を立てて1番最初に椅子から立ち上がったのは、珍しく切羽詰まったような表情を浮かべている財前だった。といっても、その表情は彼だけに限らず全員がそうなのだが。



「ひ、久しぶり!」



亜梨沙は自分を凝視してくる彼らに対して、両手を振って挨拶をした。口元に描かれている弧は誰からどう見てもいびつで、わだかまりがある事など一目瞭然だ。そんな彼女を見て遠山は先頭を切って一目散に駆け寄り、そして勢いよく飛び付いた。小柄ではあるが力のある遠山を受け止めるのに、亜梨沙は精一杯全身に力を入れる。



「金ちゃん?」

「ごっつ心配したんやで!亜梨沙、遠くへ行ってもうたのかと思て、もう会えへんのかと思て」

「そ、そんな事ある訳無いよ。いなくならないから、ね?」



亜梨沙は、自分の腰に抱きついて涙目で見上げてくる遠山の頭を、困ったように弁解しながら撫でた。まだ待つという事があまり出来ない遠山にとって、連絡を取らない期間が長すぎたのだろう。そんな遠山の様子を見て他の者も立ち上がり、彼女の前にはいつの間にか全員が立っていた。1人1人と目を合わせるが、やはり適切な言葉は出て来ない。



「亜梨沙さん」

「…うん」

「おかえりなさい」

「え、」



しかし、そんな気まずい沈黙を壊すように白石は笑顔で亜梨沙にそう言い放った。何かもっと別の事を言われると覚悟していた彼女にとってその言葉は予想外だったが、その笑顔の意味を理解するなり少し顔を綻ばせ、ただいま、と返した。



「ほんま亜梨沙さん反則、待ちくたびれたっすわ」

「焦ったっちゅー話やー!」

「ばってん、顔見れて安心したとね」

「マンションでも中々会えへんかったし、俺ピンポン鳴らしに行こかと思いましたもん!」

「やだユウ君、そんな事考えてたのー?」

「ユウジはん、それはご家族にも迷惑やで」



先程までの雰囲気が嘘のように消え、彼らはまたいつもの調子で賑やかに話し始めた。沈黙から抜け出せた事は良い事なのだが、その抜け出す時間がいくらなんでも短すぎる事に拍子抜けしたのか、亜梨沙の口はポカンと情けなく開けられている。



「亜梨沙さん、アホ面ですよ」

「く、蔵君?」

「この通り、皆ちゃんと待ってました。まだ何かあるみたいやけど、とりあえずは安心です」



いつの間に隣に来たのか、白石は開いている亜梨沙の口を、顎を押し上げて閉じさせた。そして未だ彼女の腰に抱きついている遠山の頭にポン、と手を乗せながら、更に言葉を付け加える。その表情はやはりとても柔らかく、いよいよ本格的に彼女の涙腺は緩む。



「ちょ、え?亜梨沙さん?」

「ごめん…何か、皆の顔見たら安心しちゃって」

「あぁああぁー!?皆ー!白石が亜梨沙泣かせたでー!!」

「部長、表に出てもろてえぇすか?」

「落ち着いて光ン!」



亜梨沙が涙を流し始めるとあっという間に周りを彼らが囲み、あれやこれやと言い合いが始まる。誰が悪い、などは勿論無いのだが。



「今はまだ自分でもよくわからなくて、整理が出来て無いの」



しかし、亜梨沙がぽつりと言葉を発せば、その言い合いもすぐにパタリと止む。



「でも、皆に話したら楽になる気がする」

「ゆっくりで良いたい」

「全然話まとまってないし、きっと聞いた所で訳わからないと思う」

「なんでもえぇっすわ、それで亜梨沙さんが楽になるなら」

「…聞いて、くれますか?」



恐る恐る問いかけた亜梨沙に、彼らは全力の笑顔で頷いた。一連を見守っていた戸田と店長も笑顔で顔を見合わせ、その場には和やかな雰囲気が流れた。
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