「…何やっとんのやろ、俺」



全国大会が終わって焼肉屋の駐車場で流しそうめんしとったら、ちょうど他校の奴らと出くわして、そのまま焼肉大会が始まった。全然知らん学校もおって、まぁ新鮮っちゃ新鮮やったし焼肉もぎょうさん食えたから、そないつまらんもんではなかった。あの青学の乾っちゅー人が作うた汁はありえんかったけど。

好きなだけ食って食って騒いで、今は大阪に帰る為の電車に乗っとる。外はすっかり暗い。そんな何もない景色を、窓の縁に肘を掛けて見とったら、ふいにそんな言葉が口から漏れ出た。隣におる謙也さん、向かいにおる千歳先輩、千歳先輩の隣におる部長が、一気に俺に視線を向ける。



「ど、どないしたん財前!お前がんな憂いのある顔をするなんて…!」

「謙也さんうっさい」

「まぁ、言いたいことはわかるとね。でも、俺らは待つって約束たい」

「でも」

「財前」



反論しようとする俺を止めたのはやっぱり部長で、民宿のロビーでの話し合いが思い出される。あん時は謙也さんの方が余裕なかったんになんやねん今の俺、ダッサいわほんま。



「そりゃ心配よ、アタシだって。アタシだけやない、皆もそやろ?」



部長の言葉に続いて話し始めたのは、部長の通路を挟んで隣に座っとる小春先輩やった。その隣におるユウジ先輩は小春先輩の言ったことに同意するように、ものごっつい勢いで首を縦に振っとる。そのままもげてまえばえぇのに。ちなみに金ちゃんは銀さんの膝枕で爆睡しとるから、会話には参加してへん。銀さんは…相変わらず無表情やから何考えとるんかわからんわ。て、そないなことどうでもえぇ。



「心配じゃない、なんて事はなかと」

「当たり前っちゅー話や」



千歳先輩と謙也さんの言葉に、部長も難しい顔で頷く。



「待つだけっちゅーのがこないにももどかしいんは、確かに初めてやなぁ」



そして、自分でもその考えに驚いているのか、若干吐き捨てるように呟いた。自虐的っていうんやろか、どっちにしろこんなの部長らしくあらへんわ。…なだめられる立場におる俺が言えることやないけど。



「みーんな心配で不安でしゃあないけど、それでもアタシ達亜梨沙さんのこと信じてちゃんと待てとるやん。ほな、それで充分やろ」

「小春…」

「そない辛気臭い顔したらあかんて!そんなんで亜梨沙さん受け入れるつもりなんか?」



小春先輩の言う事はもっともやし、頭では充分理解出来とる。でもしゃーないやん、俺かてネガティブになったりするわ。しかも、あんだけ騒いだから一瞬忘れとったけど、先輩らと出来る最後のテニスももう終わってもうたし、あーーなんやねんこの悪循環。言い表しようのない感情達が沸々と出て来て、正直頭も心もパンク寸前やった。



「俺ら何回亜梨沙さんの事で悩んどんねん」

「全くばい」

「うじうじしすぎっちゅー話や」



他の先輩らはそう言って明るい表情になったけど、俺だけはどうもそれに馴染めんくて、そのまま目を閉じて寝たフリをした。その直後、隣(つまり謙也さん)からバシッと頭を叩かれ、「きばりや」とツッコまれ、そのツッコミに不覚にもほんの少しだけ、目頭が熱くなった。
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