───それから、試合は進み。



「試合は?ワイ、まだコシマエとやっとらんで?」



思わず手に汗を握る試合が沢山ある中、それでも私はどうか勝ちますようにと応援していたのだけれど、残念なことに皆は負けてしまった。でも、それぞれ満足の行く試合を出来たからか、その顔はスッキリとしていて安心した…のも束の間、どうやら金ちゃんだけは違うみたい。コシマエ君(いや、多分越前君だと思うんだけどね)と試合を出来ないのがよっぽど嫌なのか、ずっとコートの中で駄々をこねている。



「金太郎!」



そんな金ちゃんを、子供を叱るようになだめるのは蔵君だ。今にも泣き出しそうな金ちゃんを見ていると心が痛むけど、こればかりは私もどうしようも出来ない。

…が。

どういう成り行きか、なんと金ちゃんとコシマエ君はこれから試合をすることになった。ただし一球のみ、という条件付きで。それが決まると金ちゃんは途端に笑顔になり、コートに向かって駆けて行った。



「仕方ないっすわ」

「金ちゃんらしいとね」



皆は呆れたように、でも何処か楽しそうにそう言う。それを見て私の口元も緩み、そして試合は始まった。



***



「さすがにボールが割れたのにはびっくりしたよー」

「ウチのゴンタクレは常に未知数ですからねー」



亜梨沙と白石は、つい先ほどの出来事を懐かしむようにそう笑い合った。

越前と遠山の一球勝負はかなり白熱したものとなり、両校はその迫力に釘付けとなった。最後のショットでいよいよ決着が着く、と思われたが、ボールが2つに裂けた為結局勝負は引き分け。2人からすると不完全燃焼だろうが、内容が内容だっただけに特に後悔の念は見られなかった。

そんな経緯で、今は全員で帰路についている真っ最中だ。試合には負けたが、常日頃から「楽しんだもん勝ち」というのをモットーにしているだけあって、彼らに落ち込んでいる様子は見られない。



「結局亜梨沙さんに良いとこ見せれなかったっすわ…」

「そんなことないよ。それに光君は来年があるでしょ?」

「…来年も見に来てくれるんすか?」

「勿論」



亜梨沙がそう言えば財前までもが笑顔になり、ちゃんと切り替えられた事がわかる。

しかし、そんな彼らとは裏腹に、沈んだ表情を浮かべている者が1人。



「正人ー、自分やけに暗いなぁ。なんかあったんか?」

「んーん、なんでも」



それは、四天メンバーの誰でも無く、観戦していた側の正人だった。口調は平然を装っているが前述した通り表情は浮かばず、謙也が心配して声をかけてもこの反応だ。何があったのか詳細が気になるのは事実だが、おおよそ予想は出来ているというのもまた事実だった。

この大会が終わった後に待ち受けているもの。それは、亜梨沙と正人が抱えている唯一の問題とも言える。



「…じゃ、行こっか、正人」

「えー?亜梨沙達は打ち上げ来ないんかー?」

「うん、ごめんね。また帰ったらお店に来てね。皆ありがとう、なんか元気出たよ」



正人の沈んでいる表情に気付くなり、亜梨沙の表情にも少しの変化が現れた。侘しさを含んだ声で言葉を投げかけ、そのまま2人は彼らとは逆方向に足を進めようと足先を変える。



「亜梨沙さん、正人」



そんな2人を、白石はいつもより大きめの声量で引き止める。その呼びかけに亜梨沙と正人が反応して振り返れば、白石だけではなく、全員が不安そうな、しかしどこか元気付けられるような笑顔でこちらを見ている。



「待ってますから」



たった一言、その一言だけで一瞬にして涙腺が弱まった亜梨沙は、それを必死に堪えながら一度だけ強く頷き、また歩き出した。次会う時は笑顔でいられるようにと、その場にいた全員が願ったのは、言うまでもない。
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