季節は巡り、春。



「(あー、だるいなぁ)」



入学式から数週間経って、クラスの雰囲気にもようやく馴染めてきた。けどやっぱりウマの合わない部分も最初のうちはたくさんあるわけで、この朝の通学路を歩いている時は決まって家に戻りたくなる。

なんというか、派手、なんだ。どの子も。さすが大阪人って感じで。いや、別に派手が悪いわけじゃないし、大阪人を偏見してるわけでもない。でも私は昔からそう目立つ方ではなかっただけに、その派手さについていけない。



「…バイトかぁ」



そんなことを考えながらゆっくーり歩いていると、バイト募集中!、と随分達筆な字で書かれた貼り紙が貼られてる店が目に飛び込んできた。暖簾には甘味処、って書いてある。外装は落ち着いた配色で、窓からチラリと見えた店員さんも物腰柔らかそうなおばあさんやおばさんが主だ。

昨日の夜、お母さんが家計簿を見ながら頭を悩ませていた。私も高校生になってバイトが出来る年齢になったわけだし、お母さんの手助けが出来るのならこれは良いチャンスなのかもしれない。



「(よし、放課後来よう)」



本当は今すぐ中に入って交渉したいけど、今はとりあえず学校に行かなきゃ。

私は何度か貼り紙を確認してから、後ろ髪を引かれつつもその場を離れた。



***



「亜梨沙ー、マクド行かへんー?」

「あ、ごめん、今日は行くところあるの」

「ならしゃーないなぁ、またなぁ!」

「うん、ありがとう」



そして、放課後。友達の誘いを丁重に断った後に、あの甘味処に行くべく急いで学校を出る。

ちょうど家からも学校からも近い場所にあるそこには、小走りで向かったらすぐに辿り着いた。「いらっしゃいませ」という柔らかい声と笑顔や、どこか懐かしさを感じる匂いなど、全てに一瞬で引き込まれた私は、やっぱり此処にして正解だったなと改めて思った。自分の直感も捨てたもんじゃない。



「あの、表の貼り紙見て来たんですけど」

「あぁ、バイト希望の子ね!てんちょーう!」



カウンターにいた朝も見かけたおばさんに声をかけると、その人は少し声を張り裏の方へ向かって言葉を放った。それに反応してはーい、とこれまた優しい声色で暖簾の奥から出て来たのは、若干腰が曲がっていて見ているこっちが癒されるような笑顔を持っているおばあさんだ。この人も朝に見たなぁ、ていうか店員はこのお2人しかいないみたい。



「初めまして、あの」

「面接ね、こっちでやりましょうか。戸田さん、お店ちょっと頼むね」

「わかりました。頑張ってね!」

「あっ、は、はい」



…す、凄くスムーズに進んでるけどいいのかな?普通面接って日は改めるものだと思ってたから少しびっくり。でもまぁ好都合なことには変わりないから、おばあさんの後に続いててくてくと奥の部屋に入る。畳の心地良い匂いが鼻を掠めた。



「それじゃあ面接始めましょうか」

「すみません、まさか急に受けれると思ってなかったので、履歴書とか何も用意してないんですけど」

「履歴書?あぁ、いらないいらない!私の質問に答えてくれたらそれでいいですよ」



うん、わかった、この人結構適当だ。そう確信して私があはは、と1つ苦笑を漏らした直後、早々と面接は始まった。おばあさんから問いかけられた質問に着々と答えていき、頭の中であれこれと言葉を絞り出す。



「そんなことが…大変だったねぇ…あっ、そうだこれウチの新メニューなんだけど名前まだ決まってないんだよ!何が良いかねぇ?若い子のセンス、期待してるよ!」



でもそんな私の努力も虚しく、結果、雑談に発展しました(ちなみに採用だそうです)(やっぱり適当だった)。
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