あれから私達は、土壇場で決めた予定の通りレストランで昼食をとって、街中を少しふらふらして、足が疲れ始めてきたところでホテルに向かった。フロントでチェックインをして部屋に入って、一気にリラックスモードに入る。

晩ご飯と朝ご飯のバイキングも文句なしに美味しかったし、温泉も気持ち良かった。部屋の中ではそこまで口数はなくともゆったりとした空間を過ごせたし、これならこの先も楽に過ごしていけそうだと思った。

そんな感じで迎えた、翌日。



「───亜梨沙さんっ!!」



1番最初に飛びついて来たのは、意外なことに金ちゃんではなく光君だった。人目を気にせずに叫んで来て頭ごと抱えるものだから、周りの人は勿論目が点だ。なんだろうこのドラマみたいな光景、と私は心の中で苦笑して、でも光君は離れる気配がないからあやすように背中を叩く。すると、次は私の背中に衝撃が走った。



「亜梨沙やーっ!!」

「あはは…」

「姉ちゃん潰れそうだぞ」

「財前!金ちゃん!亜梨沙さん苦しそうやっちゅーに!」



衝撃の正体は金ちゃんで、この様子を見て正人は呆れ、走ってきた蔵君は焦って私から2人を引き離す。そうして他の皆も続けてぞろぞろとやってきて、あっという間にその場は賑やかになった。蔵君に着いたよ、ってメールしてから5分も経ってないよね…?そんな急がなくてもよかったのになぁ。

とは言っても駆けつけてくれたことが嬉しいのは事実だ。私はいつもよりなんとなく不安そうな顔をしている何人かに笑顔を向けて、試合をするコートに行く為足を進める。皆は去年の全国大会でベスト4までいったから、今年はシード扱いで1回戦はなく2回戦から試合があるらしい。それが今日、この後にある。



「1試合目は誰が出るの?」

「俺っすわ。絶対見とってください」

「もちろんだよー」



私の質問に即座に答えてくれたのは光君だ。いつもは他の皆とは違って冷静だけど、テニスではどんな試合をするんだろうなぁ、と少しワクワクする。



「亜梨沙さん」

「ん?」

「全国大会終わったら、どっか遊びにでもいきましょ」

「…うん、そうだね」



その時ふいに蔵君が言ってきた言葉に、私はつい一瞬言葉に詰まってしまった。それは客観的に聞くとなんの変哲もないただの遊びの誘いだけど、きっと蔵君は私の心情を知っている上でそう言ってくれてる。どれだけ気さくに見えても、本当はちゃんと考えてくれてる。その気遣いの上手さには年上ながら頭が上がらない。だから、そんな私が今出来ることといえば、とにかく皆を精一杯応援することに尽きると思う。たくさん心配かけさせちゃったけど、皆が今まで頑張ってやってきたものだもん。そりゃあ見守ってたい。



「あ、ちゅーか自分正人やったっけ?」

「おう」

「俺忍足謙也!よろしゅうな!」



そう物思いに耽っていると、横では謙也君が嬉々とした様子で正人に話しかけ始めた。そして、それに続くように他の人達も改めて正人と挨拶を交わす。正人と皆は同年代なんだから打ち解けるのが早いのは別になんもおかしくないんだけど、でもこうしてみるとなんとなーく違和感だ。自分の身内が自分の友達と仲良くなるのってなんか…ソワソワする。



「…変なの」



勿論、決してマイナスな感情では無いのだけれど。

大阪に到着してからは、正人には見せていないけど、実際は色んなことに対しての不安で胸の中はいっぱいだった。それが皆に会った途端嘘のように薄れて行って、お父さんのことが全く気にならないとまではいかなくとも、それまで感じていたような押し潰されそうな感覚は今はなくて。そこまで考えて、自分が安心してるんだということにようやく気付いた。



「女の子はデリケートですもんねっ!」

「…小春君?」

「でも、せめてアタシ達の前ではそんな風に肩の力抜いて下さいな」



後ろから軽く飛びついて来てそう言った小春君は、まるで本当の女友達みたいだ。優しい笑顔にまた心が軽くなる。この人達と一緒なら大丈夫、とあの時確信したのは、やっぱり間違いじゃなかった。
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