「姉ちゃーん」

「あ、正人!いらっしゃーい」



そして18時頃、亜梨沙が言っていた通り彼女の弟である正人は甘味処に姿を現した。こういった所に入るのは初めてなのか、レトロな雰囲気の店内を物珍しそうに見渡している。そんな彼の様子を亜梨沙含め店長、店員である戸田もまた微笑みながら見ていた。



「何食べる?」

「えー、姉ちゃんのおすすめ!」

「亜梨沙ちゃん良いお姉ちゃんしてるのねー。弟くん、ゆっくりしていってね」

「はーい」



人懐っこさは亜梨沙譲りなのか正人が笑顔でそう対応すると、戸田は可愛い!、と興奮した様子で自身の仕事場に戻って行った。それに亜梨沙は少し苦笑する。



「んーと、じゃあ王道に白玉ぜんざいとか?」

「それでいいぜー」

「わかった、ちょっと待っててね」



しかし亜梨沙も満更でもないのか、微妙に張り切った様子で仕事を始めた。それを見てたちまち嬉しそうな笑顔になる正人は、やはり結構なシスコンなのだろう。



「お、おじゃましますっ!」

「あ」



と、その時だった。



「亜梨沙さん、こんば…って、うわぁあぁあああ!?お前えぇえ!?」

「あ、朝のエレベーターの人」

「いらっしゃい皆!…どうしたの?」



妙にどもった声と共に先陣を切って入って来たのは一氏で、亜梨沙の姿を見て一瞬肩の力が緩んだのも束の間、カウンター席に正人の姿を確認するなり、お構いなしに彼のことを指差し絶叫した。それに正人は平然と返すが、昼休みから彼らの様子がおかしいことに気付いていた亜梨沙は少し困った表情をしている。



「堪忍なぁ亜梨沙さん、騒がしくて。…亜梨沙さんの彼氏?」

「そうでーす」

「何言ってるの正人、弟だよ」



ギャーギャーと騒ぐ一氏を他のメンバーに任せて(一緒になって騒ぎ始めたメンバーもいるが)、白石は亜梨沙と正人に話しかけた。そして正人の答えに一瞬心臓が跳ね、亜梨沙の答えで落ち着き。そうなんや、あいつら勘違いして大変やで、と白石は安心した様子の笑顔と共にそう言い放った。あたかも自分は気にしてなかったかのように言っているが、そんなはずがないことは正人には見抜かれているだろう。



「え、お、弟?」

「そうだよー、朝ユウジ君に紹介しようと思ったのに階段で行っちゃうんだもん。びっくりした」

「…ユウジ先輩のアホ。ほんまアホ。消えて」

「まぁまぁ光ン落ち着いてー!」

「亜梨沙ー腹減ったー!」

「せ、せやな!一件落着っちゅー話や!」

「これが真理なり」

「アホばっかばい」



それに対しての騒ぎが収まったのも一瞬で、今度は違う話題で騒ぎ始める彼ら。そんな彼らを正人は呆れながら見つめ、少しカウンターに身を乗り出し亜梨沙に話しかけた。



「…姉ちゃん、何あれ」

「ん?常連さんだよ。四天宝寺中のテニス部の子達」

「テニス部ってどこも濃い奴らばっかなんだな」

「立海の子達も凄いんだっけ?」

「テニス部部長と同じクラスなんだけどよー、もー凄いどころじゃねぇよ」

「あはは、そうなんだ」



仲睦まじく会話を交わす三上姉弟を、ある者はチラチラと盗み見たり、ある者は容赦なく凝視したり、ある者は呆れたり。それでも何はともあれ彼氏疑惑は解けたのだ、余計な疑念を持つことも無いだろう。



「…えぇなぁ、亜梨沙さんの弟」

「財前、それ自分が言ったらなんか危ないで」

「なぁ謙也ぁー、亜梨沙と弟似とるなー!」

「せやなー」



心配事が一気に無くなり気が抜けたのか、謙也は適当な態度で遠山に返事をした。彼らにとって亜梨沙に彼氏が出来るということは、幼稚園児が先生を取り合いするアレと似たようなものなのかもしれない。



「あ、姉ちゃん、俺9月頃またこっち来るから」

「そうなんだ!学校休みなの?」

「んー、休みっつーか」



店内には、絶え間なく騒ぎ続ける彼らの声が響き渡っている。



「母さんと姉ちゃんとこに行く。父さん、再婚するみてぇだから」

「…え?」



しかし、いつもなら圧倒されてこっちまで楽しくなってしまう彼らの雰囲気に、今回亜梨沙は着いて行くことが出来なかった。
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