「なぁなぁー今日皆で放課後どっか行かへんー?」



いつも通り屋上で昼食をとりながら雑談をしていると、ふいに沙希が遊びの誘いをして来た。それに対し香菜子と幸江は二つ返事で了承するけど、残念なことに私だけは断りの返事を入れる。



「なんかあるん?」

「うん、今弟が来てるの」



そう言うと皆は、それならしゃーないな、楽しんでき、と言葉をかけてくれた。皆には家庭事情を軽く説明しておいてあるから、こういう時に余計な詮索はしてこない。



「ちょくちょく会っとるんか?」

「んー、離婚してからは初めてだよ」

「ちゅーか今日月曜やん、弟さん学校は?」

「創立記念日らしくて、土曜から泊まってるの。今日の夜帰るって」

「なるほどなぁー!」



ちなみに上から香菜子、幸江、沙希の順番だ。

弟の正人とは小さい頃から特にそんな喧嘩もなく、姉弟としては異例なほどに仲良くやって来た。だから離れて暮らすことになった時は、…というかなんで浮気をしたお父さんの元に正人は着いて行ったのか、とか色々あるけど、まぁそこはおいといて。とりあえずそうなった時は、ただただ寂しかった。例え神奈川と大阪っていう距離の近さでも、毎日会えていたのが急に月1とかになっちゃうんだもん、寂しくないはずがない。

そう思っていたのは正人も同じだったみたいで、私に会うなりまず抱きついてきたのは記憶に新しい。そして今日も私のバイト先に遊びに来るみたいで、我ながら愛されてるなぁとしみじみ思う。



「そういえば弟って学校何処なんー?」

「立海大附属だよ」

「あぁ、あのテニスが強いとこやねんなぁ」



私が通っていた中学校は立海のすぐ側にあったせいか、強豪と言われているテニス部の話はよく耳に入ってきた。確か私の1個下、すなわち正人と同じ代の子達が凄まじく強くて、しかもイケメン揃い…とかなんとか?顔も名前もわからないから本当かどうかは知らないけど、正人もテニス部は色んな意味で凄い、ともらしていたから本当なんだろう。

…テニス部といえば。

…さっきから皆の視線をひっしひしと感じてるのは。

…気のせいじゃない、よね?



「(うわあぁあめっちゃ見られてる!)」



敢えて気付いてないように振舞ってたけど、今朝のユウジ君といいなんだか今日は皆おかしい。小春君が光君に殴りかかろうとしてるところなんて初めて見たし、ユウジ君もやっぱり頭を抱えてこの世の終わりみたいな状態だし…他の皆にはとにかく見られてるし。いつもみたいに気さくに手振ったりしてくれるならいいんだけど、今日その行為をしてくれたのは金ちゃんだけだ。…私なんかしたかなぁ。



「亜梨沙、そろそろ行くで」

「あ、うん」



ちょっとブルーなモードに入っていた時、幸江にそう言われてもう皆立ち上がってることに気付く。名残惜しいような、視線から逃れられて安心したような。そんな微妙な感情を胸に抱きながら、私は屋上を後にした。
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