不思議な人だと言えるのは私も皆も同じだった。年下の男子とこんなに気兼ねなく話してる自分が不思議だし、なんの変哲もない平凡な私にかまってくれてる皆も不思議だし。



「あぁあああぁー!?」



そんなことを考えていたら早速皆のうちの1人、言わずもがな金ちゃんが叫び声をあげた。それに驚いてそっちの方に反射的に目をやると、そこには注文した品物を床に落としてしまったのか、かなり落ち込んでいる金ちゃんがいた。



「まだぎょうさん残っとったのにー…」

「よそ見しとるからやで。もうお小遣いないんやろ?俺の分けたるから我慢や、我慢」



今にも泣きそうな金ちゃんに、なだめるように優しく声をかける蔵君。蔵君以外の皆も自分が食べている物の一口分くらいを金ちゃんにあげて慰めていて、その暖かさにまた胸がほっこりするのを感じる。



「(あ、そうだ)」

「亜梨沙さんすんません、雑巾貰ってもよかと?」

「うん、ちょっと待っててね」



それを見た私はある事を思い付いたんだけど、その前に片付けが先な事を千里君の言葉で気付かされ、急いで掃除用具を持って皆の元へ向かう。いくら仲良くなったとはいえ客なのには変わりないから、率先して掃除をしようとする皆の心遣いをやんわり拒否して、私は掃除を終わらせた。



「ほんまごめんなさいねえ亜梨沙さん」

「ううん、全然気にしなくていいよ」

「亜梨沙ごめんなあ…」

「大丈夫」



相変わらず泣きそうな顔をする金ちゃんの頭を撫でれば、なぜかよけい泣きそうになってしまった。金ちゃんが泣き出さないか不安に思いながらも、とりあえず掃除用具を片付けに裏に戻って、そのまま厨房にとどまる。するとタイミング良く店長が裏から出て来たので、私はさっきの思い付きをそのまま伝えると、店長は目尻を下げて優しく笑い「当たり前でしょ」と言った。それに対して私も笑顔でお礼を言った後に、早速準備に取りかかる。私の行動を見兼ねた戸田さんがそれを手伝ってくれて、ものの10分足らずで準備は終わった。

緩む顔を必死に抑えて皆の元に向かえば、案の定皆はどないしたんですか?、と首を傾げてくる。そんな皆に笑顔だけを見せ、私は目的の人物である金ちゃんの横にかがんで視線を合わせた。



「ねね、金ちゃん」

「亜梨沙ー?どないしたんー?」

「これ、今度うちの店で出す新メニューなの。試食してくれないかな」
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