「ほんまよう働くなあ」

「んが?」



さっき運ばれてきた抹茶アイスを食っとったら、ふいに隣におる白石がそう呟いた。急になんやねん思て素直に聞き返せば、思ったよりも変な言葉が口から出て白石に「謙也、口ん中丸見えや。汚い」と頬を軽く(っつっても結構痛いんやで)叩かれる。相変わらず潔癖症やなぁ、にしても叩くことないやろ、ヘコむわー。んでもまた叩かれるんは嫌やし、大人しくアイスを食いきってからもう1回話しかける。



「で、どないしたん?」

「別になんもあらへんけど…ただ見たまんま、よう働くなあ思て」



そう言った白石の視線の先には、着物を着とるがゆえに歩幅が小さくなっとって、それでいて忙しなく動いとる亜梨沙さんがおった。この店はそないでかくあらへんから別にそこまで動き回る必要もあらへんのに、それでも亜梨沙さんは一生懸命働いとる。注文取って、それを厨房に伝えて、やる事無くなったら店内の飾りの位置を直したり、掃除したり。



「…なんやあの小動物」

「謙也もそう思う?俺的にはウサギぽいなあて思うんやけど」

「ひよこも混じってへん?」

「何先輩らファンシーな会話しとるんすか。似合わな」

「俺はお前からファンシーちゅー言葉が出ることに驚きや」



俺達の会話に蔑んだ視線を送りながらツッコんできた財前に、白石も負けじと冷静にツッコむ。ま、似合わないとかどうでもええっちゅー話や。ほんまにひよこっぽいもん亜梨沙さんふわふわしとるし。



「ほんま、思いもよらぬ出会いやなあ」

「確かに、しかもユウジマンション同じて。世界狭いわー」

「ユウジ絶対亜梨沙さんに惚れるで」

「な、なんやて!?ユウジが小春から巣立つんか!?巣立ちの時か!?」

「謙也うるさい。あ、亜梨沙さんこっち向いた」



俺の質問責めを白石はこれまた冷静にあしらうなり、続けてそう言った。多分俺の大声を不思議に思ったんか、亜梨沙さんはがっつり俺達に視線を向けとる。せやから白石がなんでもありません、て言いながら笑顔で手を振ると、亜梨沙さんもおぼん持っとるから手は振られへんけど、笑顔で軽く頭を下げてきた。



「あ、俺も惚れそ。かわえーエクスタシー」

「白石も巣立つんかぁ!?えっどないしよ俺置いてきぼりやん」

「なんでそうなるん。ちゅーかお前のヒナになった覚えはないで」



でも、確かに亜梨沙さんは俺達にとって不思議な存在やった。それは多分、今まで俺達が年上の女の人っちゅーもんと関わったことがなかったから尚更そう感じるんやろうけど、それでもなんちゅーか…うん、訳分からへんな。

好き放題やっとる俺達と関わる女子って言えば、一緒になって思いっ切り馬鹿騒ぎするか、遠巻きに見て笑っとるかのどっちかのタイプが主やった。でも、亜梨沙さんはどっちにも当てはまらんのや。一緒っちゅーほど近くもないし、遠巻きっちゅーほど遠くもない。



「なんなんやろなーこの距離感」

「…え、いきなりどないしたん。きも」

「その精一杯どん引きした感じやめてくれへん?」



でも、その妙な距離感に落ち着くのも悪くあらへんなぁて、らしくもなく思った。
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