「(あー、結構遅れてしもた)」



校門を出た後に携帯で時間を確認すると時刻はもう19時前で、待ちくたびれとるあいつらの顔を思い浮かべるなり俺の足は自然に走り出した。

そもそもこない遅くなってしもた理由は、部活終了後に全部活の部長会議があったからや。最初はあいつらも会議終わるまで待ってる言うてたんやけど、昨日行った甘味処が偉く気に入ったっぽくて、やっぱり空腹には勝てず先行ってしもたみたいや。まぁこうなることはわかっとったから別にええんやけど。



「(あ、着物や)」



学校からさほど遠くないその甘味処に向かっとると、前方に着物を着た女の子が目に入った。祭もなんもあらへんこの時期に女の子が着物着とるっちゅーのが珍しくて思わず見たけど、それよりなんやあの荷物。腕千切れそうやな。



「ふー…」

「あのー、大丈夫でっか?」



一度両手の荷物を地面に置いて溜息を吐いたその子に話しかけると、心底ビックリしたような顔を向けられた。まぁ、突然話しかけてしもたから当然っちゃ当然の反応やな。



「あ、いや、もうすぐ着くんで大丈夫です」

「こない重たい荷物女の子1人に持たせるなんて酷やなぁ。何処までですか?手伝いますわ」

「いやいや!ほんとバイトなんで!仕事なんで!」

「ええからええから」



最後まで渋る表情を見せたその子をスルーして、俺は奪うようにしてその荷物を持ち上げた。あ、重。ほんで目的地を聞いてみると、



「あーほんとすみません…あの角にある甘味処です」

「…ほんまですか?俺もちょーどあそこ行くとこだったんです」

「…あれ、四天の制服…テニスバッグ…もしかしてユウジ君の部活仲間?」



まさかの答えが返って来た。…世界て狭いんやなあ。



***



「ただいま戻りましたー!」

「はいはいおかえりーごめんね亜梨沙ちゃん」

「亜梨沙ちゃんおかえり、そしてお客さんいらっしゃ…あぁー!昨日のイケメン君じゃないの!」

「どーも」



朝のユウジ君との鉢合わせといい偶然とは度重なるもので、お使いの帰り道にユウジ君の部活仲間、蔵君に遭遇した。最初話しかけられた時はなんだこの格好良い人と思ってビックリしたけど、色々話していると凄く気さくな事がわかり、とても楽しかった。

で、そんな楽しい雰囲気の中甘味処に戻ると、そこには私がお使いへ行くのと入れ違うように此処に来たのであろうユウジ君と、その仲間達がいた。皆もまた楽しそうで、思わず顔が綻ぶ。ていうか戸田さん蔵君にべったりだー。



「蔵君、本当にありがとうね」

「ええですって、気にせんといて下さい」

「亜梨沙さん、どーも!」

「改めていらっしゃいませ、ユウジ君」



私が2人に向かってそう言えば、周りの子達はなんだなんだと一気に沸き出す。わぁ、この中学生っぽい感じ可愛い。



「白石もユウジも隅に置けないとねー」

「ほんまっすわ、ただのエクスタシーとホモの変態コンビやと思っとったのに」

「なんやて財前!表出ろや!!」

「財前、明日の練習メニュー覚えとき」

「あらやだ蔵リンが怒っとるわー!」

「今のは財前が悪いやろ」

「謙也さんうるさい」

「お前えええ!!」

「全員静かにしなさい、迷惑をかけるのはいかん」

「銀ー!ワイ抹茶パフェ食べたいー!!」



誰か1人が騒ぎ出せばそれが全員にすぐに蔓延する。確かにこの甘味処の雰囲気には合わないうるささかもしれないけど、なぜかそのうるささが私は落ち着いた。店長と戸田さんに目を向けても同じことを思ってるのか、優しい微笑みで彼らを見てる。



「亜梨沙さーん!注文頼んますー!」

「はーい!」



そして私は蔵君の呼びかけで彼らの元へ向かい、ポケットから注文票を取り出す。一気に注文しようとする子達を蔵君とお坊さんみたいな子が宥めて、結局蔵君が代表して注文をまとめて言ってきた。



「えー白石ぃ、ワイあれだけじゃ足らへんー」

「そないなこと言っとったら金ちゃんの場合キリないやろ。また来るんやからそん時に頼んどき」



また来る。

注文を聞き終えて机から離れるときにそんな会話が聞こえて、思わずまた後ろを振り向く。すると笑顔のユウジ君と目が合って、また騒ぎ出してる彼らがいて、あぁ、やっぱりあったかいなぁって思った。
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