うるさく鳴り響く目覚ましの音で目が覚める。時差ボケが酷いものの、一応飛行機で睡眠はとったしそこまで眠いわけではない。 時刻は朝5時。1日目の昨日はホテルにチェックインするだけで終わったけど、今日と明日のはスケジュールがびっちり入ってる。その中でも少しは観光も出来るみたいだから、それも含めて楽しまなきゃ!と前向きに考えた所で、とりあえずベットから出て身支度を始める。 「泉ー、起きてるー?」 「起きてますー!」 「着替えたらロビー集合ね、朝食用意されてるって」 ドア越しに北野さんと会話をした後、少し急いで身支度を済ませロビーに向かう。 頑張ろう、頑張らなきゃ。エレベーターの中で1人決意をし、一度顔をパンッ!と両手で叩き気合を入れる。大丈夫、頑張れる! 「おはよう泉。時差ボケは大丈夫?」 「おはようございます。ちょっと変な感じはするけど大丈夫です!」 「それ分かるわー。何はともあれ2日間頑張りましょ」 「はい!」 朝食の後はすぐに近くの撮影場所である海に移動して、ロケバスの中でメイクをして、早々と撮影が始まった。春先の、しかも早朝の海だから中々体感温度は寒いけど、ここは我慢だ。 「Miuちゃん、足先海に浸けれる?」 「はーい、っ、冷たい!」 「あはは、良いねー!」 「今凄い素出ちゃいましたよ!」 そんな感じで撮影は順調に進み、あっと言う間に2日目は終わりを迎えた。海の他にも遊園地や商店街、色々な場所に行く事が出来て凄く楽しかったし、何よりも現地の方々が本当に暖かくて、私の心も暖まった気がする。 だから、1人になった夜に少しあの人の事で寂しくなったのは、無かった事にする。 *** 「あーあ、此処とももうお別れかぁ」 「そうだな」 「楽しかったなぁ」 大学のカフェテリアにて、同じ日本人留学生の友人、小堺(こさかい)はそう言って天井を仰ぎ見た。こいつはこっちで取る予定だった資格をつい先週取得したから、もう明後日に此処を発つ予定だ。俺と同時期に留学して来て、寮も同じ。小堺は適当で面倒くさがり屋だが、そんな待遇の中仲良くならないはずがなかった。 「俺最初お前見た時、絶対仲良くなれねぇと思ったわ」 「そんなの俺も一緒だ。開口一番“氷帝の跡部様!?”って言われて仲良くしようと思う奴が何処にいる」 「それはお前のカリスマ性が原因!」 小堺も都内の私立高校に通っていたらしく、氷帝についてはよく知っていたそうだ。気取った奴しかいない金持ち学校だのなんだの、印象は散々だったが。 「でもこうやって仲良くしてみて、お前の人間らしい面が知れて良かったわ」 「てめえ、俺をなんだと思ってたんだ?」 「まぁまぁそのへんは!あ、あとお前も日本帰ってきたらさーMiuちゃんのサインお願いな!あの子、氷帝生だったんだろ?」 「…あぁ、そうだが。前も言わなかったか?」 「おう聞いた聞いたー」 そこで急に出たその名前に、柄にもなく一瞬言葉を詰まらせる。Miuが氷帝生である事を聞かれたのは留学したての頃で、それ以来この話題が出ることはなかったからすっかり忘れていたが、そういえばこいつに泉との事は話してなかった。言ったらどんな反応するんだ、こいつ。 「おーい、跡部ー?」 「小堺」 「なんだよ」 この3年間と少し、小堺とはほぼ四六時中と言って良いほど共に過ごしてきた。その関係性から見ても、俺にとってこいつがどれだけ信用出来る存在かはとっくのとうに分かっている。 「泉は俺の女だ」 「へ?泉?」 「Miuの本名だよ」 だからはっきりとした口調でそう告げれば、こいつは一瞬気の抜けたような声を出し、たっぷり15秒は固まった。そして、 「え、えぇええぇ!?マジで!?」 「あぁ」 「なんで今まで言わなかったんだよ!?」 「現在進行形だが、色々あってな」 「うわぁあああマジで本当に超ビビった。お前詳しく聞かせろよ!」 「何回同じ事言ってんだよ。詰め寄ってくんな」 こいつが帰るまでの今日を含め後3日間、寝不足になる事間違いなしだと確信した瞬間だった。 それにしても、俺の女か。この状況で大層な事を抜かすもんだな。騒ぎ続ける小堺を余所目に、1人心の中で自嘲した。 |