「───と、私、Miuでお送りしましたー!」



あれから、半年。



「Miuちゃんお疲れさま!今日も良かったよー!」

「お疲れさまでした!ありがとうございます!」



今までは遠慮していたものもどんどん引き受けて、私の生活の中心は完全に仕事になった。ローカル番組のMCやコレクションへの参加、その他にもバラエティの出演など、様々なジャンルに積極的に取り組むようになった。私の中の足りないもの全てを満たすように、言ってしまえばただがむしゃらに働き続けている。



「いいの?最近スケジュールびっちりだけど」

「大丈夫です、入れてください」



楽屋に着くなり、浮かない表情で心配をしてきてくれた北野さんに笑顔で返事をする。きっと北野さんは私の気持ちなんてとっくの昔に読み取ってるだろう。でもあえて触れてこないそれは、いつまでも変わらない北野さんの優しさだ。



「この後はBスタジオで雑誌撮影よ。1回メイク落としに行きましょう」

「わかりました」



私物を持って隣のBスタジオに移動する。その間も私と北野さんの会話は仕事の話ばかりで、そこに以前のような世間話はない。それは凄く寂しいけれど、世間話をすれば私はきっと弱音を吐いてしまう。そんな事、したくない。



「じゃあ、頑張ってらっしゃい」

「行ってきます!」



でも、スケジュールが過酷だからといって仕事を蔑ろにしているつもりは微塵もない。やっている時はいつも全力だし、やりがいも感じている。1人になった時にとんでもない孤独感に襲われるというだけで、仕事に対しての意欲は昔からずっと一緒だ。



「(大丈夫、大丈夫)」



色鮮やかに彩られていく自分の顔を鏡で見ながら、そう言い聞かせる。でもその時目が合った鏡の中の自分を見て、あれ?と違和感を抱く。



「Miuちゃん痩せた?なんか顎のライン凄いシャープになってるよ」

「みたいですね」



メイクさんにも言われたけど、痩せたというよりこけたという表現の方が的確な気がする。こういう痩せ方はあまり好きじゃないのに、自己管理もちゃんとしなきゃなぁと反省。兎も角それは帰ってから考えるとして、今は仕事だ。切り替えていこう。

化粧をして、髪を巻いて、お洒落をして、高いヒールを履いて。そうすれば完全に仕事の私、所謂Miuに切り替えることが出来る。大丈夫、区別出来てる。そう自己暗示して今日もフラッシュを浴び続ける。

ねぇ、貴方は、元気ですか?



***



「上手くやってるんだねー」

「当たり前だろ」



自習室で勉強していた際に携帯に着信が入り、相手を確認してみるとそこにはジローの名前が映し出されていた。だから俺はロビーに移動し、近くにあった適当な椅子に座りながら電話に出た。

ジローとこんな風に話すのは割と久しぶりだ。あの日、半年前、泣きながら怒りながら電話をかけてきたのが最後だったか。それからはメンバーのうちの誰かがかけてきた時に少し話す程度で、ジロー本人が直接かけてくるのはあまりなかった。まぁ、裏を返せばそれほどコイツも気持ちの整理がついたのだろう。



「もう俺に心配かけさせないでよねー!ってか俺だけじゃないんだから!」

「わかってるよ」

「…ねぇ、跡部」

「ジロー」



ジローは誰よりも俺と泉の傍に居た。俺だけではなく、泉だけではなく、俺と泉の傍に。いわばジローにとって俺達は2人で1人そのものだったのだろう。だが、これからはそんな訳にはいかない。しばらくの間この状態でいる事を、ジローには慣れてもらう他ない。消え入るような「ごめん」という謝罪を聞いても、そこはどうしようもなかった。



「お前の言いたい事はよくわかる」

「跡部と泉が離れたあの日に比べたら、俺きっとまだ大人な考え出来てるよ。でも、やっぱり」

「わかってるから」



どれだけ周りが俺達を支えてくれているかなんて、充分すぎるほど痛感してる。だからこそあいつらの感情を挟まない決断を下したのは辛かった。結果、最初から納得してくれる奴なんざ忍足と滝しかいなかったくらいだ。香月は…よくわからないが。



「お前と鳳は似たような反応したな、あの日」

「当たり前だよ!俺も鳳も、そういうのよくわかんないもん。…でも、安西は違った」

「…あぁ、そうだな」

「そっか、って。それだけだった」



そう言った香月の表情を、俺は思い浮かべる事が出来なかった。大抵奴らの声を聞くだけで表情が容易に浮かんでくるのに、その時の香月についてはどう判断すればいいのかわからなかった。それからも普通にメールや電話は入れてくるが、泉の話題に触れた事は無い。あいつなりの気遣いなのか、それともあいつ自身も触れたくないのか。



「講義、ちゃんと寝てねぇで聞いてるか?」

「…ちょっと寝ちゃうけど」

「単位落とすんじゃねぇぞ」

「跡部、俺」

「じゃあな」



そして俺は、ジローが言葉を続ける前に強制的に電話を切った。

一般的にきっとこの行為は逃げそのものだと思う。そんな事はわかりきっているが、こうでもしないと自分を保てる気がしない。半端な気持ちであいつを迎えに行きたくない。その為には少しの強がりぐらい許してくれ、と心の中でジローに伝える。

携帯の電源を切って、再び自習室に戻る。そこは全てが静寂に包まれていて、俺はなぜかその静けさに寂しさを覚えた。

結局、俺の気持ちはあれから少しも変わってねぇ。なぁ、お前もそうか?
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