「そうなの!それでね」

「中々充実してるみてぇじゃねぇか」



 土曜、午前9時半。

いつもは大体北野さんの車で向かう仕事場も、今日はこうして徒歩でゆっくり向かっている。理由はただ1つ、この貴重な時間を確保する為だ。電話先で聞こえる声に柄にもなく心が躍る。



「勿論皆一緒で楽しいけど、やっぱりねぇ」

「なんだよ」

「分かってる癖にー」



普段時間が合わない分、もし合う時があるなら最優先する事くらいは許して欲しい。ロスはちょうど夕方くらいで、まだ金曜日だから景吾は今学校帰りらしい。



「今日は何時まで仕事なんだ?」

「結構長いんだよね。PVの撮影とか初めての事だし、尚更。夜遅くまでかかるかも」

「ちゃんと北野さんに送って貰えよ。絶対に1人で夜出歩くな」

「うん、大丈夫。ありがとう心配してくれて」

「ん」



微妙にトーンが下がった声を聞いて、あ、照れてるんだなぁと思い口元が緩む。こういうのが顔を見ずともわかるようになったのは、いつ頃からだっただろうか。

そうしてそろそろスタジオが迫って来たので、景吾にもその事を伝える。いつもなら割とあっさり切るのだけれど、今日はちょっと様子が違った。



「景吾?」

「ちゃんとお前の事見てるから、行って来い」



返事をする前に「じゃあな」と切られ、無機質な音が耳に入る。でも口のニヤけはどうにも止められなくて、私は思わず両手で顔を覆った。好きとかそういうのも勿論嬉しいけど、それよりももっと欲しい言葉をくれる景吾が、本当に大切だなぁと思う。



「あら、おはよう泉。どうしたのこんな所に立ち尽くして、顔真っ赤だけど」

「今は触れないで下さい」
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