「香月ー!」

「あ、泉ー今講義終わったの?」

「そうだよー」

「お疲れ様」



桜舞い散る季節、春。高校の頃からの親友である朝倉泉と安西香月は、今、氷帝大学のカフェテリアにて合流したところだ。



「私もカプチーノにしよっと」

「うん、買っておいで。1人で大丈夫?」

「ん、多分」



入学してまだ1ヶ月も経ってない2人だが、泉がMiuだということは勿論大学全体に広まっており、その人気ぶりは彼女が一歩踏み出せばそれはもう盛大な注目を浴びるほどであった。なのでその事を案じた香月がそう言葉をかけると同時に、2人の元に1人の男が近付いて来た。



「なら俺が着いてったるわ」

「あ、侑士」

「…何かそれもそれで不安だけど。ま、私動くの面倒だから頼むよ」

「酷い言い分やなぁ。ほな行こか」



近付いて来た男、忍足侑士は、適当な物言いをする香月に苦笑した後に、泉の隣を歩き始めた。



「凄い視線やなぁ。あの子達手振っとるで」

「まぁ、まだ入学したばっかりだし。いずれ収まるよ。そういう侑士も凄いけど」

「いずれ収まるやろ」

「ですね」



こういった視線は高校の頃、周りに正体がバレた際に経験していた為今更嫌悪感を抱く事は無い。むしろ隠していたあの頃とは状況が違うので、今の方がやりやすいとも言える。しかしそれでも複雑な心境には変わりなく、なるべく周りと目を合わせないようにして2人は自販機に辿り着いた。



「侑士何か飲みたい?」

「えぇって、泉に払わしたら跡部に怒られるわ」

「何それー」



そうして結局は忍足が泉の分も払い、それに対しお礼を言ってから紙コップに入って出て来たコーヒーに口を付ける。質素な味は意外にも美味しく感じ、こうしてこの自販機を利用する事は度々あった。



「跡部とはどうなん?」

「うーん、どうなんだろうね」



香月の元に歩きながら戻っている最中、ふと忍足が問いかけた質問に泉は言葉を詰まらせた。口調は明るいが、気を紛らわすようにコーヒーを飲み始めたその仕草はそれとは逆だ。



「でも、待ってるって決めたからさ」



極めつけに弱々しい笑顔と来た。忍足は完全に失敗したなと反省しつつも、「偉い子やな」と言って泉の頭を撫でた。「でしょ!」と胸を張って鼻を高くしている彼女の優しさに、そしてこんな彼女を独りにしているあの俺様に、なんとなく胸が締め付けられる。
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