初めて異変を感じたの2週間くらい前だった。仕事の撮影中にも体調を壊してトイレに駆け込む事があったし、このままじゃ周りに迷惑をかけちゃうなと思ったから、大人しく病院に行った。

でも、病院で言われた言葉は全く予想していなかったものだった。

私は半信半疑で先生の言う通りに違う病院へ行った。その病院とは、産婦人科だ。着いてきてくれた北野さんと診断結果を待って、その結果に放たれた言葉はやっぱり予想外すぎた。



「おめでとうございます、ご懐妊です」



言われた瞬間全く理解出来なくて、私が何かを話し出す前に北野さんが泣いて喜びだしたのを覚えてる。その涙を見て、私も泣いた。

景吾との間に赤ちゃんが出来た。

こんなに幸せな事って本当にないと思うし、北野さんだけじゃなくて香月もまた泣いて喜んでくれた。でも、その反面不安もある。景吾は最近大きな仕事を任されたばっかりで1番忙しい時期なのに、伝えちゃっても大丈夫なのだろうか。だから私は1週間経った今でもまだ伝えられてない。きっと景吾の事だから私に何か変化があったとは気付いてるんだろうけど、やっぱりタイミングがわからない。



「はぁー…」



今さっき作ってきた母子手帳を見つめながら、家のドアの前で溜息を吐く。嬉しいけど、不安。そんな葛藤ばっかりが胸の中を疼く。でもずっとこうしてる訳にはいかないよね、この季節はすぐに体が冷えるし赤ちゃんにも良くない。だから私は意を決して、ドアを開けようとドアノブに手をかけた。



「っ、痛ーっ!?」

「泉!?」



と思ったんだけど、なんという漫画的展開。先に景吾が中から出てきたからおでこにドアが直撃した。おかげで手に持っていた夕食の材料やら手帳やらが全部地面に散らばった。…ん?手帳も?


「お前、これ」



一気に血の気が引いて息を飲んだ頃にはもう時既に遅し、景吾はしっかり母子手帳を手に持っていた。なんて最悪な伝え方なんだろう…でも、ここまで来たら言わない訳にはいかない。だから私はポツリと、出来たの、と呟いた。長い長い沈黙が降りかかってくる。顔を上げれないから景吾がどんな顔をしてるかわかんなくて、また不安が広がる。



「ちょっ、景吾」

「なんで早く言わないんだお前は」



と思った瞬間、景吾は地面に散らばったものを光の速さでかき集めてそれらを片手に持ち、もう片手で私の事を軽々と抱き上げた。リビングに入ってソファに優しく座らせられ、そして景吾はそのまま崩れ落ちるように私にひざまずいた。な、何この珍しすぎる光景!



「景吾?」

「ありがとう」

「えっ」



ふいに繋がれた手に力が入る。更に、景吾は私のお腹に耳を当てた。



「た、多分まだなんもわかんないと思うよ?」

「でも、確かにいるんだな」

「…うん、いる。いるよ」



私がそう言うと景吾はお腹から顔を離して、そのままゆっくりと抱きしめてきた。



「ずっと、望んでた」

「…負担に、ならない?」

「むしろ更にやる気が出る。本当にありがとう、お前も、この子も」



これまで感じていた不安が一瞬にして消え去って、その代わりになんとも言えない気持ちが私の中に垂れ込んできた。結婚式で皆に祝福された時もこんなような気持ちになったけど、今はもっとこう、なんて言うのかな。とりあえず、私も景吾もこうやって泣いちゃうくらい幸せなのは間違いない。



「ご飯作ろっか」

「手伝うぜ。体に良いもん作んねえとな」

「景吾目真っ赤ー」

「お前に言われたくねえよ」



2人して目を腫らして、笑い合って、きっとこんな私達を見てこの子も笑ってるんだろうなあと思ったら、また幸せを感じた。

これからよろしくね、私達は逢えるのを楽しみに待ってるよ。




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