「お前はあいつらが大好きだろ」

「そりゃあ当たり前だよ。急にどうしちゃったの?」

「俺もあいつらが大好きだ。だから俺達が1番幸せな時、1番側にいてほしいのはあいつらだろ?」



跡部らしくない急な発言に泉は眉間に皺を寄せ、言葉の意味が理解できないという風に首を傾げた。しかし、その疑問はすぐに晴れる事になる。



「跡部ー!もう、待たせすぎだC!」

「ほんまや、どんだけイチャこいとんねん」

「私達を使っておいて待たせるなんて良い度胸ね」

「うるせぇよ」



2人が歩みを進め校門付近に差し掛かると、そこにはお馴染みのメンバーが勢ぞろいしていた。芥川に至っては大きな花束を持っており、泉の頭はますます混乱に陥る。



「なん、で?」

「跡部に頼まれたんだよ。俺達に1番側にいてほしい、ってな」

「景ちゃんかわえぇなー」

「黙れ」

「全く、見せつけてくれますね」

「泉せんぱいぃいぃ!!」

「落ち着こうね、鳳」

「ウス」

「泉泣いてやーんの!」



これが跡部からの更なるサプライズだと知るなり、泉は向日に笑われながらも再び涙を流し始めた。それに香月が寄り添い、暖かく抱きしめる。



「あんたのおかげで本当に私変われたわ、ありがとう。そして、おめでとう。幸せになってね」

「香、月」

「俺も泉に抱きつきたE!」

「駄目だ」

「嫌です!先輩は俺のです!ねっ、日吉!」

「俺に振るな」



賑やかに騒ぎ続ける者もいれば、それを笑って見ているだけの者もいる。そんな光景を、かろうじて泣きやんだ泉と香月は共に見つめ、柔らかく微笑んだ。



「私、皆が側にいてくれればそれで良い」

「当たり前でしょー?景吾だけに独り占めはさせないわよ」

「せやで、俺らにも構ってな」

「うん、勿論」

「よーしっ!!」



そしてそれぞれの会話を遮るように大声をあげると、芥川は校門の上にあがり仁王立ちをした。



「跡部!泉!本当に、ほんっとーにおめでとー!」



その言葉と共に、持っていた花束が空高く上げられる。舞い散ってくる色とりどりの花々は、夕焼け空に美しく溶け込んでいる。



「なんか全国大会前の跡部思い出すぜ!闇夜にビビッてんのかーとか言ってたやつ!」

「それなら俺が真昼に変えてやるよ、脳の奥まで刻み込め!とか言うてたやつか?あれ印象的すぎて一字一句覚えとるで」

「激ダサだぜ跡部」

「あの時は盛大な薔薇でしたけどね。結局誰が掃除したんですか?」



いつかの思い出話を掘り返しては笑う彼らに、短気な跡部は堪忍袋の緒が切れたのか、そこからは本気の鬼ごっこが始まった。



「あー、ハギと樺地君まで巻き込まれてる」

「芥川なんて景吾におぶさってるだけじゃない、重そー」



愉快にまた騒ぎ続ける彼らを見守る2人。



「じゃ、私も」

「え!?」



しかし、香月は唐突に泉から離れ走り出してしまった。足の速さが平均をずば抜けてる彼女に泉が追いつけるはずもなく、困惑しながらもとりあえず置いて行かれないように走る。



「泉!」

「もう、皆、速い…!」



数メートル先には、笑顔で泉を見守っている彼らがいる。その中央には、大好きでやまない彼がいる。



「来いよ」



跡部は、息が上がっている泉を出迎えるために腕を大きく広げた。突然の行動に対して泉は一瞬立ち止まり、ヒュッと息を吸い込む。



「───うんっ!」



しかし表情はすぐに喜色満面となり、そのまま勢いよく跡部の腕の中に収まった。



「じゃあこのまんま跡部んちでパーティーだねー!」

「当たり前だろ、むしろ来い」

「景ちゃんてばツンデレやなー」

「お前は来るな!」



再び歩き出した彼らは、見ているこちらにまで移ってしまうような笑顔を全員が浮かべており、更に目の前には、あの頃とは違う色鮮やかな夕日が今度は彼らを照らしている。そしてそれはきっと、幸せの象徴。



「大好きだよ、ありがとう」






20100902 fin.
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