景吾のポケットの中にある左手が、一瞬にして暖まったような気がした。 「あ、の?」 「なんなら見てみるか?」 自信たっぷりの笑顔でそう言う景吾の行動が飲み込めなくて、恐る恐るポケットから手を出す。 「う、っそ」 「嘘じゃねぇよ」 私の左手の薬指には確かに、綺麗に輝く指輪がはめられている。 「どうして?」 「ずっと昔から決めてた、っつーのはさすがに胡散臭く感じるかもしれねぇが、それも本心だ」 こんな全く予想してなかった展開が繰り広げられて、すぐに理解できるはずがない。頭の中が混乱して爆発しそうだ。そんな心境を景吾は読みとったのか、ふいに優しく抱きしめてきた。優しくて、暖かくて、涙腺が緩む。 「幸せにします。結婚して下さい」 こんなに幸せでいいのかな。こんなに格好良い景吾を独り占めしちゃっていいのかな。こんなに好きで、いいのかな。 「ずるいよ」 「何がだよ」 「断るはずないってわかってる癖に」 「まぁな」 「策士だなぁ」 景吾の肩に涙が落ちる。濡らしちゃいけないからすぐに目を擦ろうと思ったけど、涙の暖かみを感じたのか更に強く抱きしめてきたからそれは出来なくなった。息が詰まるほど苦しく抱きしめられる。でも、景吾の腕の中なら苦しくないね。これからもこうやってできるんだね。 「幸せに、なろうね」 「当たり前だ」 懐かしい匂いがするこの廊下、窓から見える変わらない景色。あの頃と全く一緒だと思ってた気持ちは、更に色んなものが積み重なってもっともっと大切なものになってる。これ以上にたくさん色んなものを積み重ねていきたい。そう密かに思ってたのは、私だけじゃなかったんだ。 「行くか」 涙を拭って、一度体を離す。するとすぐ目の前には凄く優しい表情の景吾がいて、それが凄く格好良くて見つめていると、唇を塞がれた。 「不意打ち禁止だよ」 「お前のその顔に言われたくねぇな。誘ってんのか」 「ここ学校だよ!?」 「じゃあ家行くか」 「そういう意味じゃ無いです!」 そしてまた、景吾のポケットに手を入れて歩き出す。嬉しさを隠しきれなくて腕に飛びつくと、「甘えたがりだな」と笑われた。そうだよ、景吾にはたくさん甘えたいの! 「次皆に会う時報告しなきゃね!」 「いや、その必要はないぜ」 「へ?」 |