「いやー、それにしても心臓止まるかと思ったで」 「本当だね。1本取られちゃったなぁ」 「1本どころじゃねーよ…」 そんな訳で、私達は急遽ファミレスではなく景吾の家に来た。実は電話がかかってきた時既に景吾は大学の近くにいて、それは流石に私もビビったけど、景吾があまりにも楽しそうにドッキリの計画を話すもんだから思わずのってしまったという流れだ。ごめん忍足滝宍戸! 「香月は知ってたの?」 「卒論書き始めようとした時電話かかってきたじゃん?あれが景吾」 「え!そうだったんだ」 「全く、やる事が突拍子もなさすぎます」 「見習いなさい日吉」 「絶対嫌です」 全く無愛想なんだからー。とまぁそんな風に雑談を続けていると、荷物を置いてきた景吾が部屋に戻ってきた。 「ほら跡部っ、折角なんだから泉の隣座りなよー!」 「言われなくても座るっつーの」 あらあらお熱い事で。そう思ったのは私だけじゃないらしく、全員が景吾と泉を笑顔で見つめている。その様に当の本人はちょっと引いたように居心地悪そうにしていて、それがまた面白くて堪らない。 「ど、どうしたの?皆」 「やーっぱりお前ら2人だよなぁ!他の男が泉に言い寄ってるとこ見てきたけど、なんっもお似合いじゃねぇもん!」 「むっ、向日先輩!それはあまり言ったら…!」 案の定ムッとした顔になった景吾を見て、それにどうしようと焦っている鳳を見て、その場には笑い声が溢れる。 本当に、良かったわね。 やっとこうして隣にいられる2人の笑顔につられて、私はこれまでにないくらい幸せな気持ちになった。2人が辛い時、寂しい時、私は見守る事しか出来なかったけど、今こんなに幸せそうならもう何も心配はいらない。素直にそう思った。どうかいつまでもそのままの笑顔で、よろしくね。 *** 「気をつけて帰れよ」 「バイバイ、皆」 時は過ぎ、22時。跡部家で夜ご飯を食べてからも話が弾んだ彼らは、これまでの間ずっと跡部の自室にて談笑を続けていた。跡部の留学話、それぞれの就職先、後はやはりなんと言ってもおふざけ。くだらない事で騒ぎ合うのが結局彼らには合っているのだろう。 「あ、跡部!」 全員が玄関から出て行ったと思いきや、忍足はドアから顔を出し跡部に向かって手招きをした。後ろで首を傾げている泉には笑顔のみを向け、そして近付いて来た跡部の耳元で一言呟く。 「優しくしてあげなあかんで、泉初めてなんやから」 「死ね!!」 予想通りの反応に忍足は豪快に笑い、そのままようやく帰っていく。残された跡部はというと、かすかに顔を紅くし眉間に皺を寄せた。 「景吾、どうかした?」 「…なんでもねぇよ」 あながち、満更でもないのだろう。 「シャワー浴びるか?」 「あ、うん、借りても良いかな」 「あぁ」 「景吾は?」 「俺は1階のシャワーを使うから、お前は俺の部屋の隣にあるシャワーを使え。タオルは用意させておく」 「わかった、ありがとう。じゃあ後でね」 しかし、泉は忍足が考えているような事など微塵も考えていないのだろう。跡部はそれに若干苦笑し、それでもまぁいいかと自分に言い聞かせ、そのままシャワールームに向かった。 |