「あー腹減ったー!」 「お前さっき食ってただろ」 「後で皆誘ってどっか行こか。ん?」 それぞれの講義が終わり、たまたま居合わせた向日、宍戸、忍足。3人は他のメンバーを探す為に廊下を歩いているのだが、そこで忍足は前方に見知った人物がいる事に気が付いた。 「あ?って、安西じゃねーか。何やってんだあいつ1人で」 「マジだー」 「どないしたんやろな。安西ー?」 彼らが見付けたのは香月なのだが、どうやら見る限り様子がおかしいようだ。3人は何かあったのかと思い、小走りで彼女に近付く。 「安西?どないしたん携帯握りしめて固まって。生きとる?」 「…生きてる」 「あ、てか他の奴ら何処にいるか知ってっか?」 「中にいる」 「おっマジで!じゃあ俺ちょっと先入ってるわー!」 香月が会う度にいちいち笑顔を見せるタイプでは無い事は百も承知なので、向日は彼女の態度に特に何も違和感を持たず、そのまま泉達に会いに中へ入って行った。しかし、宍戸と忍足はそうはいかない。 「何あったんだよ」 「ゆっくりでええから話されへんか?」 「あれ、どうしたの3人共。深刻な顔して」 そこに、音楽室から戻って来た滝と鳳も合流する。滝は不穏な雰囲気にすぐ気付いたが、鳳は微かに開かれたドアの隙間から泉の姿を見付けるなり、すぐに「泉先輩!」と叫びながら中へ入って行った。 「ったく、長太郎の奴ちゃんとドア閉めてけよ…で、なんだ?」 宍戸がドアをちゃんと閉め、改めて香月に聞き直す。滝が忍足に何かあったのか、とアイコンタクトをとるが、状況が掴めていないのは彼ら全員に言える事なので、忍足はただ首を傾げるだけだった。 「景吾、が」 そして。 「帰ってくる」 これまで俯いていた香月の表情が、パッと光を宿したように明るくなった。 *** ほんまお前のやる事は突発的すぎるわ、跡部。 「なー、これからちょっとどっか食いに行かへん?折角全員集結してるんやし」 俺がそう呼びかけると、さっき嘆いていた岳人は勿論全員が二つ返事で賛成してくれた。そうすると見事に意見が割れ始めたこいつらを安西が一言でまとめて、結果俺達はファミレスに行く事になった。安西と泉がパソコンをしまい終わったところで、いざ出発や。にしてもまだ16時やん、これ何ご飯になるんやろ。 「何涼しい顔してんだよ」 「ん?何がや」 俺が1人でそんな事を考えとったら、さっきより明らかに顔を険しくさせとる宍戸が近付いて来た。何ピリピリしとんのやこいつ、ととぼけたフリをしてみる。すると案の定癇に障ったんか、宍戸は噛みつく勢いで俺に詰め寄って来た。 「どうすんだよ!」 「どうもこうもないやろ」 「ほんっと、お前も跡部もマイペースすぎて俺は着いてけねぇわ」 マイペースねぇ。確かにそうかもしれん、すまんな宍戸。 俺達は、ほんまについさっき安西から跡部が帰ってくるっちゅー話を聞いた。いや俺だってほんまビビッたわ、だって急すぎるやん。宍戸なんて何回も安西に聞き直しとったし、滝も流石に言葉も出ないって感じやったし。 でもまぁ、跡部らしいな思たわ。 人が絶対やらなさそうな事をやるんが跡部っちゅーのは重々知っとる。振り回されんのはいつもの事やし、それが不思議と嫌じゃないんも確か。宍戸も宍戸で、ただ単に動揺しとるだけと見た。ヘタレめ。 「自分、あんま挙動不審にならんといてな。ただでさえわかりやすいんやから」 「なんの為にこうやってお前と後ろにいると思ってんだよ」 「あ、せやから歩くの遅いんか」 安西は、跡部が帰って来る事を他の奴らには言うなと俺らに釘を刺した。それは安西やなくて跡部の指示っちゅー事なんやけど、ほんま根っからの目立ちだかりというか。 「何々、跡部の話?」 「滝!声でけぇよ!」 「あいつら何食べるか決めるんに夢中やし、気付かんて」 そこにどこかワクワクした感じで近付いてきた滝に、宍戸は大袈裟なくらいに反応する。心配性か。 俺らの前を歩く泉も含めた他の奴らは、あれが食べたいこれが食べたいと口々に好きな事を言いよってる。樺地はそれを黙って聞いてあげとるみたいや、優しいやっちゃ。しかもジローなんか甘いもんしか言うてへんわ、よう食べれるなぁ、って、ん? 「宍戸どないしたん?」 「泉ー?どしたの?」 そこで、急に宍戸の歩く足が止まった。ついでにジローと声がかぶったからなんやろ思て前を向くと、泉も止まってる。2人してなんなんや?俺達は止まった2人を不審に思て、とりあえず自然な流れでまず2人の視線の先を見た。 は? 「ドッキリ大成功〜」 安西の楽しげな声が耳に入る。ちょ、待てや。 「何ボサッと突っ立ってんだよ、バーカ」 何でお前が此処におんねん。 |