「あぁあああぁなんか落ち着かねー!」

「うるさいっつーの」

「せや、落ち着き」

「だってよー」



一方、日本。宍戸、香月、忍足の3人は、学校帰りに近くの定食屋に足を運んだ。香月と忍足は普段カフェなどこじゃれた場所に行く事が多いが、今回は宍戸の希望で此処になったようだ。



「とりあえず注文しなよ」

「カツ丼特盛!」

「俺は焼き魚定食頼んます」

「私は鉄火丼定食でー」

「はいよ!」



荒ぶる宍戸を抑制し、ズズ、とお茶をすする忍足と香月。宍戸はそんな冷静すぎる2人を一瞥した後、自分だけ感情が高ぶっている現状に呆れ、溜息を吐いた。



「暴れたと思ったら肩落としたり、なんか忙しいわねあんたって」

「うるせー」

「もどかしいんはわかるで、せやけど俺達が此処で足掻いてもしゃーないやろ」

「そうだけどよ!」

「泉が今は会わない、って決めたんだから。そうさせるしかないでしょ」



泉がロスに発った昨日、彼らの携帯にはたった一文のメールが届いただけだった。内容も希薄なもので、忍足と香月を筆頭にメンバー全員がその瞬間、泉が今回は跡部に会う意志がない事を悟った。



「なんとなく予想はしてたぜ、きっと朝倉は会いたがらねぇって。でも実際にこうなってみると、やっぱ何やってんだあいつらって思うんだよ」

「せやな」

「見守るだけには、もどかしすぎんだろーが」



不穏な雰囲気の中運ばれてくる注文した品々。その空気の読めない亭主の元気な声は、逆に3人を少しだけ救ったのかもしれない。



「いただきまーす」

「ほな俺も」

「え、お前ら話聞いてんのか?」

「宍戸も早く食べなきゃ冷めるよ?」

「え、あ、お、おう」



流された気持ちに、漂う気まずい空気。自分が思いを吐き出した事は間違いだったのか、そんな彼にしては珍しいマイナス思考が胸を疼く。



「宍戸ってさ、泉の事大好きだったよね」

「…今更掘り返してんじゃねぇよ。そんなの俺だけに言えるもんじゃねぇだろ」

「まぁそうなんだけど」



すると香月は急にそんな話題を引っ張り出してきた。流石に予想外だったのか、これには忍足も驚きの視線を彼女に向けている。しかし彼女はそんな視線は諸共せず、鉄火丼についてきた味噌汁を飲みながら話を続けた。



「泉が大好きで、でも泉が選んだのは景吾で、それでもあんた達は2人を応援してる」

「当たり前やん」

「お前なんだよ?いきなりそんな話題出して」



彼ら的にはあまり触れてほしくない話題なのか、どこか楽しそうに話す香月に2人は多少の不快感を抱いた。しかし、それも束の間。



「どんだけ泉と景吾の事大好きなのあんた達」



その言葉に対し、忍足は軽く、宍戸は大きく目を見開いた。誰もが2人を全力で応援し、心から支えていた。それは紛れもない事実だ。



「知るかよ、バーカ」



それならこれから先何があっても、今まで通り2人の全てを応援しよう。支えよう。

彼らは若干薄れていたその気持ちを改めて取り戻し、互いに目を合わせ微笑んだ後、何事も無かったように昼食を取り始めた。それを見た香月も、安心したようにまた味噌汁を啜った。
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