「…よし」



早朝。皆に「行ってきます、心配しないでね」とだけ書いた内容のメールを送って、携帯をポケットにしまいこむ。いよいよ今日は、撮影の為にロスに行く当日だ。



「さ、乗って」

「ありがとうございます」



迎えに来てくれた北野さんの車に乗り込み、空港までの道のりを揺られる。私にとって初めての写真集が作られる、それについては本当に嬉しくて堪らないのに、今はそれよりも緊張ばかりが胸の中を駆け巡ってる。ロスに行くからといって必ず会える訳ではないのに、もしもの想定をしては心臓を鷲掴みされた気分になる。しかも、私は今回ロスに行く事を景吾に言ってない上に皆にも口止めしてある。向日君は最後まで不服そうだったけど無理矢理納得してもらった。ごめんね、向日君。



「ロスと言っても一概に言えるものじゃないわ。連絡をとってない限り、偶然会う確率なんてほぼ無いに等しい」

「そうですよね」

「でも、本当にいいの?会わなくて」

「いいんです。その時まで待ちます」



きっと今私が会いに行った所で、お互いどうしていいかわからなくて困っちゃうだろう。そりゃあ会える事なら今すぐにでも会いたいけど、なんだかやっぱり今回会うのは違う気がする。自分でもむちゃくちゃな言い分なのはわかってる、むしろただの意地にすぎないかもしれない。でも、それでも、景吾に関わる事なら私が自分で決めたかった。



「3泊4日、撮影頑張りましょ、泉!」

「はい!」



ロスには、いつでも私を支えてくれる香月達はいない。でも、北野さんがいる。どんな時も私を励ましてくれる北野さんがいる。ごめんなさい、きっとちょっとの事ですぐ挫けてしまいそうになるだろうけど、こんな私を受け止めてください。運転を続ける北野さんの背中を見つめながら、思わず軽く唇を噛み締める。そんな私の表情をバックミラー越しに北野さんが寂しそうな顔で見ていた事など、少しも気付かなかった。



***



「あぁ、そうだな」

「せやろ?」



学校へ行く途中、割と久々に忍足と電話をしながら信号を待つ為に足を止める。相変わらずのこいつの話のくだらなさに笑えば、電話口はそのまま笑いに溢れた。



「せや跡部、自分、4日後とか何しとるん?」

「4日後?」



しばらくそんな風に笑い合っていると、忍足は急に声色を変えて突拍子もない事を言い出した。何かあるのか、と問いかけるが何でもない、の一点張りだ。こうなったこいつに何かを吐き出させるのは到底困難なのは経験上わかっているから、仕方なく言及せずに返事をする。



「4日後は、空港にいる」

「空港?」

「同じ寮の留学生が帰国するんだ。見送りくらいしてやろうと思ってな」

「…そか」



結局それ以降、電話先の忍足の声色はおかしいままだった。無理矢理明るい話題を出してきたりはするが、依然として何かを抱えている、そんな感じだった。

そのおかげで電話を切ってからも俺の中には何か変な予感が疼くばかりだった(ふざけんなよ忍足)。その予感が良いものなのか悪いものなのか、それすらもはっきりしねぇが、何故か泉の顔が頭に浮かんだ。




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